第8話

「初体験のエピソードとかスリーサイズとか興味ない。俺が聞きたいのはもっと別の事だ」


「私の性感帯ですか?」


「それでもない」


……本当はちょっと興味あるけど。

もし性行為をヤるなら相手の弱点を知っていた方が攻めやすい。いや、待てよ。

本人から聞くより自分で色々なところをイジりながら探す方が面白いか。

って、違う! そんな事は後回しだ。今気にする事ではない。


「お前、さっき俺の力があれば魔王を余裕で倒せるみたいな事を言っていたよな?」


「……そんな事は一言も言っていませんよ。貴方の勘違いじゃないですか? よく思い出してみてください。私がハッキリと貴方の魔法なら魔王を倒せると断言しましたか?」


「…………」


思い出してみる。

うーん……どうだっけ? 正直、その後の衝撃が強過ぎて正確に会話を思い出せない。でも確かにハッキリとは言ってなかったような気がする。

ただ明らかにそうとしか取れないような表現をしていただけで。


「と言いますか、よく考えてみたらおかしくないですか?」


レイアの目付きが変わった。何か良い案を思い付いたらしい。

いくら何でも早すぎる。予想していた以上が頭がキレるみたいだ。


「何がだ? お前の頭以外におかしい点は見付からないが」


「貴方よりはマシだから問題ありません」


それはない。俺も頭がおかしい自覚はあるが、間違いなくレイアよりはマシだ。


「そうじゃなくて私が言いたいのはどうして七瀬伊吹は死にたくないのか、って事です」


「……っ!」


そこをツッコんでくるのか。本当に面倒臭い奴だな。一瞬で攻守が逆転してしまった。


「それのどこがおかしい? 人間、死にたくないと思うのは普通の事じゃないか?」


「ええ、普通です。私だって死にたくありません」


「だろ? だから――」


「ですが、貴方は過剰に死を避けているように感じるのです」


まるで確信しているかのような口調。

こいつ、あの事を知っているのか? どうやって? 

……ああ、そうか。さっきの俺の個人情報が乗っているノート。アレに書いてあったのか。


「違います。あれに書かれているのは七瀬伊吹という個人の現在に関する情報のみ。貴方の過去や未来に関しての情報は一切乗っていません」


当たり前のように心を読みやがるな。

それはもう慣れたからいいけど、その言葉は一切信じられない。絶対に乗っていて読んでやがる。


「ですから乗っていません」


本当か?

仮に本当に乗っていなかったとしても、別の方法で知っているに違いない。


「……疑い深いですね。ただの推察ですよ。貴方の態度からの。だから詳しい事は分かりません」


俺の態度から。

そんなに分かりやすかったのか。普段の俺なら上手く隠せていただろう。だが今日の俺はテンションが上がり過ぎて、そんなところまで気が回せていなかった。


「確かに貴方のふざけた態度からそんな風に感じるのは難しいでしょう。だからこそ私は違和感を感じたのです」


どうでもいいけど、俺途中から喋っていないのに普通に会話が成立している。

もう喋るの止めようかな。言葉を口にしなくても相手が察してくれるなら、そっちの方が楽だ。


「いえ、喋ってください。別に私も全てを完璧に読める訳ではないので」


そうなのか。心の声にツッコんでいる時点で全く説得力がないけど。

まぁ、一応喋るか。一方的に心を読まれるよりは駆け引きの余地があるし。


「で、俺のどこに違和感があったんだ? とか聞くのは止めるか。これ以上分かりきった質問をしても時間の無駄だ」


レイアが言っている違和感とは俺の性格の事だ。どう考えても俺は臆病という感じじゃないからな。

どっちかと言うと好奇心が強く自分の欲を優先するタイプだ。実際異世界や魔法の存在に非常に興味を持っているし、色々と研究して体験したいと思っている。その上美女からの色仕掛け。これだけの条件が揃えば俺みたいなタイプなら二つ返事でOKするだろう。

それなのに具体的な状況も確認しないまま、命の危険を気にするばかり。これでは違和感を感じられても仕方ないか。


「それよりも先に移動しよう。ここでの長話は危険だ」


勝てる流れが見えない時は逃げるに限る。

もし秘密をバラされても聞くのはミラだけで知り合いがいる訳ではないから問題ないけど、それでも俺があの時の話をされるのが嫌だ。


「そうですね。さっきの七瀬さんの魔法で魔獣達が逃げたとはいえ、いつまでも安全とは限りません。強い魔獣なら残っていても不思議ではありませんし」


強い魔獣か。さっきのキラーウルフよりも強いのだろうか?

どんな生態なのか興味はあるけど、あんまり会いたくないな。会うなら俺がもっと魔法を理解して強くなってからだ。


「それに話なら後でも出来ますしね」


そう意地の悪そうな笑顔を浮かべてからレイアは見晴らしの良くなった方とは反対方向を向かって歩き出す。

出口はそっちなのか。ミラが来た場所から予想はしていたけど面倒臭いな。

どう見ても人が歩くような場所ではない。それに俺の服装はパジャマだ。しかも裸足。

今いる場所は綺麗に整理されているから大丈夫だけど、あっちは獣道で今の格好で歩いたら間違いなく怪我してしまう。


「お姉ちゃん、変態こんな格好で大丈夫なの? 魔獣の森って過酷だし、慣れていないと怪我するよ」


ミラが俺に気を使ってくれている。

姉は分かった上で無視しているのに、妹の方は優しいな。ちょっと惚れそうだ。呼び方はアレだけど、今は気にしない。


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