5月10日 眩しい朝

 目のあたりに変わった感触を覚える。昨日枯れるほど泣いたのはなぜだろう。

 私だけ、家でいつも忙しく机に向かう、そんな生活だった。

 現実逃避に私は布団の中でごろりと横を向く。隣にはイケメンが寝ていて、目の覚めた彼が優しく私の髪を撫でてはにかむ。そしてその感触に私は目覚めるのだ。寝ぼけたまま抱き着き、暖かい肌の上でまた眠りにつく、そんな幸福。

 そんな幸福を味わってみたい。ずっと、誰にも会えていない。

 今日はレポートに取り組む日だ、と気を引き締めて私はキッチンへと向かった。リビングでは父親がパソコンで作業をしていた。

 朝ごはんを食べ終わると同時にベランダから母親の声がした。呼ばれた先のベランダにはトカゲがいた。

 眩しい太陽光を浴びながら、まだ小さなトカゲが、蕾を抱えたブルベリーの木を囲う石の下へ隠れていく様子を私は見守っていた。

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