第4話 コーヒーカップとスムージー
ピンポーン
「ふぁい……」
眠たい目を擦りながら玄関の扉を開ける。
「お前まだ寝てんのか?」
「おりふぁ?」
「
「おふぁよ〜」
お腹をポリポリかきながら僕は彼女を家の中に招く。そしてソファに座りむにゃむにゃしていると……
「ほらよ、コーヒーだ。それと先に顔を洗ってこい」
「んん……折羽〜キレイだよ〜」
半目で見ているけど、それでも彼女の姿は美しい。
「はいはい、しっかり起きてからまた褒めてくれ」
女性の服装やオシャレを褒めるのはマナーだと聞いた。しかし僕と折羽は色々初めてなのでそこら辺は手探りで進めて行けばいい。
パシャパシャと顔を洗い少しずつ意識が覚醒する。そしてふと時計を見ると午前7時。
折羽……早すぎじゃない?
リビングに行くとキレイな鼻歌が聞こえてくる。今日のデートを楽しみにしていたのだろう。
「折羽、改めておはよう」
「おはようさん!」
「早いね」
「楽しみだからな。それよりコーヒー冷めちまうぞ?」
「うんありがとう」
折羽の隣に座りコーヒーを1口すする。
うん美味しい。
「美味しいよ折羽」
「だろ?」
ニヤリと笑う彼女をマジマジと見る。今日の髪型は後ろでまとめてお団子。動きやすいストレッチ素材の白のインナーに赤いカーディガン。デニムパンツは七分丈。
「折羽ってオシャレだよね」
「んあ? そうか」
隣でクッキーを齧かじりながら自分をジロジロ見ている。
「僕も折羽にコーディネートしてもらいたい」
僕の願望に折羽は神妙な顔をして。
「実はな……」
「うん」
「彩羽あが全部やってくれてんだ」
「彩羽ちゃんが?」
彩羽ちゃというのは折羽の妹さん。折羽と似てめちゃくちゃ美人なのだ。
「おう、私はほらけっこう適当に決めてっから」
「そうなんだ、彩羽ちゃんのセンスは凄いね」
「ニシシッ自慢の妹だ」
「僕もオシャレしなきゃな……」
僕は彼女と付き合うにあたって不安な事がある。容姿が優れている彼女の隣に相応しい格好をしなければいけない。僕のせいでせっかくの綺麗な花が台無しになってしまう。
しかし折羽はそんな僕の呟きに少し怒ったように返す。
「渚……」
「ん?」
「周りなんて気にすんなよな。お前がどんな格好をしてようが私は離れないし幻滅もしない」
「……」
「だいたい容姿で人を判断すんなって言ったのはお前だろ?」
「それは……」
それはそうかもしれない。だけどそれでいいのだろうか。藤宮折羽という彼女のブランドを下げてしまわないだろうか。
「お前がなに考えてるのかだいたいわかるぞ」
「うっ……」
「私の評判を気にしてんだな?」
「うん」
はぁ〜とため息をつきやれやれといった具合に首をふる折羽。
「その気持ちは嬉しいけどな……私はお前1人が見てくれりゃいいんだよ」
「……折羽」
「それにな、私だって変われたんだぞ? お前も変われるさ」
変われる。というのは彼女のトラウマの事だろう。
「それに1人じゃねぇ、私がいる」
僕の両頬に手をムギュっと押し当てて正面から見つめる。
「私と一緒に探して行こう? ……な?」
「うん!」
「そっちの方が倍楽しめるだろ」
ニヤリと笑う彼女にキスをしたかったが、お預けをくらってしまう。
「遊園地に行ってからだ」
らしい。
………………
…………
……
電車に揺られる事30分目的地の遊園地に到着だ。最近わかった事だが折羽はやっぱり人目に付く。
容姿もあるだろうがその独特の人を寄せつけない雰囲気にグッとくる人も居るのだろうか。ナンパとかされないかと不安になってしまう。
「おい渚着いたぞ?」
「えっもう?」
どうやら考え事をしていたら早く到着してしまったみたい。そして受付に行って2人分のチケットを購入する。
「いまならカップル割してますよ〜」
スタッフのお姉さんの言葉を受けて僕と折羽は揃って口に出す。
「「それで!」」
カップル……いい響き。
改めてカップル割のチケットを買った僕らは園内に入る。しかし入る時に折羽が立ち止まり……
「渚……」
「ん、どうしたの折羽?」
彼女は少しためらった後に右手を差し出し小声で。
「手……繋ぐぞ」
ぐはぁ……こんな可愛い子が僕の彼女。
「喜んで!」
2人の初デートはてを繋いでスタートした。
最初に選んだアトラクションは水の上を2人乗りボートで進むやつ。途中水しぶきがあるのでカッパを着用して入る。
「うわぁ……凄いね折羽あれ作り物?」
「おわっ! やべーなこれ。なんかスゲー口開けてるぞ」
僕も折羽もこの遊園地は初めてなので2人ともテンションが高い。
しかし、折羽さん……終始僕の腕にしがみついて。かわいい
水しぶきの場所に来るとより一層彼女の力が強くなる。
「渚、来るぞ、やべぇやつが来る!」
「ぼ、僕に任せてって言ってもあれは無理」
そして……
ザパーンッ
「「キャーーー!!」」
僕も女の子みたいな悲鳴を出した。それくらい迫力があったのだ。
「いやぁカッパなかったらずぶ濡れだな」
「予想以上の水だったね、はい折羽タオル」
「サンキュー」
事前に調べてたから僕はタオルを持って折羽に渡す。
「ぷはっ、いやぁ初っ端から豪快だなぁおい」
「すっごい水しぶきだったね」
「おう、しかし今日はパンツで良かったぜ」
「確かにスカートだと見えちゃうもんね」
「だな、ちなみに渚は……そのどっちがいい?」
どっちがとはスカートかパンツかの事だろう。
「どちらかというとスカートかな」
「そっか……」
「チラッと見える折羽のパンツがたまらない」
「てめぇ……」
やばい素直な感想が出てしまった。しかし怒ったのは一瞬で彼女は髪をいじいじしながらポツリと。
「ま、まぁ恋人だしな……徐々に慣れていけばいっか」
「うん、僕達の恋はゆっくり探していこう」
「だな。さて次に乗るヤツは……」
折羽と歩きながら僕達はコーヒーカップ型のアトラクションの前に到着する。
これは、自分達で台座の中央の円盤を回して敵を回避していくアトラクションらしい。綺麗なCG映像が360°から流れてくる様は圧巻との口コミ。
「よっしこれにするか!」
「うん、あっ待ち時間結構長いねどうする?」
列の最後尾には待ち時間30分のプラカード。
「ん〜……おっ! あれ飲みながら待つか」
「あれ?」
折羽の指さす方向に目を向けると、カラフルなコップの看板。折羽に手を引かれて行くとそこはスムージーのお店。
「ほへ〜なんかカラフルな飲み物だね」
「渚は何味にする?」
ん〜っと悩んでいると目に止まるバニラとチョコのミックスの文字。1度で2度美味しいなんて贅沢。
「すいませんミックスを……」
頼もうとした時に折羽から邪魔をされた。
「バニラ1つとチョコ1つ」
「折羽?」
まぁまぁと言う彼女に言われるがまま頼んだ商品を受け取る。不思議に思いながらもそれを持って列の最後尾に並ぶ。
「いただきまーす」
「僕もー」
2人でストローをさして1口。僕のチョコスムージーには凍らせたバナナが入っている。そして折羽のバニラにはイチゴ。
「ん〜冷たくて美味しい」
「イチゴが甘くていいな」
2人で感想をいい合うと唐突に折羽が僕の口に自分のストローをねじ込んできた。
「んぐっ……?」
訳のわからない僕に彼女は耳元で囁く。
「間接キスだぜ……どうだ甘いだろ?」
なるほど別々に頼んだのはこの為だったのか。折羽は僕のチョコスムージーを自分の唇に持っていきチューチューと吸っている。
その後に乗ったコーヒーカップのアトラクションよりも、ずっとドキドキしたのは言うまでもない。
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