第32話 彼女と席

 次のテストが近づいてきた頃、ホームルーム中の教室内は活気に溢れていた。


「よっしゃー!次こそ俺は窓際の席」

「俺は早弁したいから後ろがいい」


「私は○○君の隣がいいなぁ」

「俺もだよハニー」


 高校生活にもだいぶ慣れてきた本日この日……僕の決戦が幕を開ける。


「先生ェ!!」

「なんだ黒江?腹痛か?」

「お願いがあります!」


 僕は真正面から園田先生を見つめる。そしてクラスの厄介事の中心である僕をクラスメイトも見つめている。


「……一応、聞こう」

「委員長は二人一緒に居た方がいいと思うんですよ!」

「…………で?」


 続きを聞きたくないというような顔。美人が台無しだ。


「なので委員長権限で、僕は藤宮さんのがいいです!」


 胸を張って不正を働く僕。それを見てため息をつく先生と藤宮さん。クラスメイトは「なんだ、いつもの事か……」なんて言っている。


「ちなみに……なんで藤んの後ろがいいんだ?普通隣だろう?」


 先生はその事が気になったみたいで僕に疑問を呈してきたので、僕はで考えをまとめる。


「愚問ですね!後ろに居ると、甘くて切ない藤宮さんの香りを堪能できる。そして後ろから見る藤宮さんのうなじが、たまらなくえっちで好きだから!そして極めつけは、嬉しい時にポニーテールがみょんみょんしている所なんてキュン死必然ッ!!」


(さて……先生の質問にどう答えよう?)


「黒江……」

「はい?なんです先生」

「心の声と実際の声……多分逆だぞ?」

「えっ……」


 ギギギ……

 僕は藤宮さんの方をゆっくりと振り向く……しかしそこには藤宮さんはいない。


「アレ?藤宮さん……」

「もしもし……クロエくん」


 反対側の方から風鈴のような綺麗な声が聞こえる。……ただし死神の声だけど。


「……はい」

「私の香りを嗅ぎたいと?」

「……はい、最高です」

「いやぁ……私のうなじがえっちだと……」

「……はい、すごくえっちです」

「そして、ポニーテールが……」

「……はい、みょんみょんです」


 一時の静寂が辺りを包む。


「クロエ……いや、お前……いや、もうこの際、名前を呼ぶのも馬鹿らしくなってたな……キミでいいや」

「せめて弁明をッ!そして是非、渚とッ!」


 僕は冷や汗と涙を流しながら、金色の死神様に懇願する。そしてその優しい微笑みとは裏腹に声は怒りに満ちていた。


「心の声は嘘をつかないよ……


 死神の鎌が僕の意識を刈り取る。ちなみに藤宮さんが最近ハマっているゲームは『アサシン〇リード』だそうだ。


(どうりで技が洗練せれているわけだ……)





 ◆

「んじゃあ、気を取り直してくじ引きするぞ〜」


 先生が僕を放置して音頭を取り、席替えが行われた。


 僕が起きたのは席替えの終盤だった。


「はっ!残りの席は?」


「いい所に起きたなぁクロエ」

「あと、二席残ってるよ!そしてその内の一つは……」


「こ、これは……」


 残りの席……その内の一つは藤宮さんの後ろの席だった。そしてそんな時に争うヤツといったら決まっている……そう、にっくきあんちきしょーだ!


「星宮ぁぁぁッ!!勝負だぁぁぁ!」


 いつもの温厚な僕は何処へやらという裂帛の気合い。


「クロエ君……君にはここで消えてもらうよ、私と折羽の仲は誰にも邪魔させないッ」


 いつのまにか姫乃さんは藤宮さんを呼び捨てにしていた。その事も含めて僕の闘志は極限まで高まる。



 ◆

 今ここは、二人の無限の戦場と化した!


「僕は勘違いをしていた……僕のこの愛は一方的なものだと思っていた」

「……」

「だがそうじゃなかった……僕は愛を伝えるだけだったが……彼女もまた僕に愛を伝えていたんだ……」

「ほぅ……それで?」

「僕が、紙と言葉で……彼女は、おかずと拳でそれぞれの愛を生み出していた……」

「……」

「すなわち……この体は二人の愛でできていたッ!」

「……偽物の分騒いでッ!!」


「いくぞ星の宮よ……武器の貯蔵は十分か?」


 ◆


 ………………

 …………

 ……


「マジか……」

「やへぇな……」

「これが……」

「……あぁ」

「「「「「愛の力ッ!!」」」」」



 そこには藤宮さんの後ろの番号を握りしめ、拳を高々と真上にあげる僕と……膝から崩れ落ちるあんちきしょーの姿があった。



「ウィィィィィィィィ!!」


 僕の雄叫びが学校中に響き渡り、因縁の相手との決戦に勝利した!



ーーーーー

【あとがき】

是非、感想・ご意見お待ちしております。

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