第21話 彼女と食事
お風呂から上がりリビングに向かうと四人は一瞬バツが悪そうな顔をしていたが、すぐに優しい顔に戻って僕に話しかけてくれた。
「さぁ渚くん、一緒にご飯を食べましょう!」
「え!いいんですか?」
「もちろんよ!それよりお家に連絡しなくて大丈夫?」
色羽さんのこの言葉を聞いた三人は視線を合わせている。
きっと先程の事を考えているのだろう。
「あ〜……そうですね。えっと……電話をお借りしていいですか?」
「……ええいいわよ」
そう言って色羽さんは自宅電話の子機を渡してくれた。
「ちょっと電話してきます……」
そういって僕はリビングを出て、妹に電話をかける。
「やっぱり大丈夫じゃない!」
「安心した〜」
「考えすぎだったのか……」
藤宮さん以外はホッとした様子。しかし本人は……
「なんか……ちょっと違和感が」
「不審な点でもあったの?おねぇ」
彩羽ちゃんが問いかける。
「うん……なんだかいつもと違うような」
「考えすぎではないか?」
「そうよ!あんまり疑ってたら怪しまれるわ」
「うん……」
そう締めくくったタイミングで彼がリビングに戻ってくる。
「ありがとうございます。妹には昨日の残りを食べてもらうように言いましたので」
ほらね!というような色羽さんの視線を受け私も納得する。
「そう!今度家にも連れてらっしゃい」
「……はい」
しかし彼の返事は私にしかわからないくらい少し沈んでいた。
そして5人で食卓を囲む。
「では改めて、私は折羽達の父の
「はい、初めまして葉一さん!藤宮さんの事が好きな黒江渚です!」
「はっはっは!元気があってよろしい」
笑う葉一さんの口元はほんの少し藤宮さんに似ていた。
そこからは皆で雑談をしながら食事を続けていく。
「まぁ、折羽に惚れる気持ちはわかる!我が娘ながら超絶可愛いからな!」
葉一さんはお酒を飲んでから饒舌に語り出す。彩羽ちゃんは「はじまったよ……」と言いながらうんざりした様子。
色羽さんはニッコリしながら葉一さんを見ている。
(家族ってこんな感じなんだ……)
僕は今までに味わったことがない感覚に震えていた。
「折羽が可愛いのはわかる!付き合いたい気持ちもな!だがな……いいか少年」
葉一さんは僕の目をしっかりと見つめて問いかける。
「本人の気持ちを考えてやるのも男ってもんだ!一方的な愛では相手を振り向かせる事はできない」
「一方的な愛……」
僕にはなぜか、その言葉だけが鋭く胸の奥に響いてきた。
一方の藤宮さんは話を聞いていないふりをしながら彩羽ちゃんとお喋りしている。耳元をこちらに向けながら。
「うむ!折羽から少年の話は嫌という程聞いている」
「ッ!!お父さん?」
いきなりの爆弾発言に藤宮さんは慌てる。
「まぁ待ちたまえ折羽。いいか少年……折羽が男の話をする事なんて今までなかったんだ」
「おと……もがぁ……んん〜」
藤宮さんは彩羽ちゃんに捕まり口元を抑えられていた。
「つまり……」
「つまり……(ごくっ)」
「折羽もまんざらでわないという事だ!ガハハハハハハハッ」
その瞬間、藤宮さんの力と魂が抜けていくのが見えた。
しばらくして……
「お父さんの……おとうさんの、バカッーー!!」
藤宮さんは大絶叫してリビングを去っていった。
「あらあら……青春ねぇ」
「お父さん……本人の前であれは無いよ」
「しょぼーん……」
葉一さんが膝を抱えて泣いている。
「まぁでも、確かに今までおねぇが男の話した事なかったよね」
「そうねぇ……あるのは愚痴ばかりだったかしら」
女性二人は遠い目をしている。そして話を変えるように色羽さんは切り出した。
「デザートにしましょ!」
「えっ!」
「ふふーん、黒江さん。デザートはおねぇの手作りよ」
「えぇ!!藤宮さんの手作り」
「まぁ一般的にはデザートじゃないんだけど……」
そして色羽さんが冷蔵庫から取り出してテーブルの上に置いたのは……
「……卵焼き」
黄金に輝く卵焼きがそこにはあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます