第15話 彼女の返事

 藤宮さんと交換日記をする事になった翌日。

 朝の教室で僕の机の前に座った藤宮さんが声をかけてきた。


「……読んだ」

「うん!どうだった」

「……死ぬかと思った」

「素敵すぎて?」

「……恥ずかしくて」

「あははは!」

「ッ!なんで笑った?」


 藤宮さんは頬を赤くしながら僕の胸ぐらを掴んで顔を近づける。


「かわいい、キレイ、好き!」

「ッ!声に出てるぞ」


 僕の言葉に再度顔を赤くする藤宮さん、そしてシュバッと手を離す。


「だって、あの日記帳に書いた事はほんの1部なんだよ?なんならあのノート1冊使っても藤宮さんの魅力には足りないね……」


 僕はやれやれと言った具合に首を振る。それを見て藤宮さんは頭を抱えている。


「はぁ……どうしてこんなヤツ……」


 小さな独り言は日記帳に吸い込まれていった。そしてその日記帳を僕に渡してきた。


「……書いたぞ」

「ありがとう藤宮さん!見ていい?」

「……おう」


 藤宮さんの許可を得て僕は日記帳のページをドキドキしながらめくる。

 するとそこには……


『今度の土曜日……店に唐揚げ食べに行く』


 短い文章だがなんとも藤宮さんらしい内容が書かれていた。

 僕は藤宮さんの方を向き笑顔で応える。


「うん!愛をこめて作るね!」


 そんな僕の顔を見て藤宮さんはそっぽを向きながら返事をする。


「お、おう。美味いの頼むぞ」


 そして授業が進みお昼休み前最後の授業。担任の園田先生が入ってくる。


「あ〜頭いてぇ……」


 相変わらずの酔っ払いぶりにクラス中はため息をつく。


「先生、しっかりしてくださいよ!美人が台無しです」


 僕の声に先生が顔をあげる。


「何が狙いだ?」


 その声には長年の刑事のような鋭さがあった。僕はそれに臆する事無く告げる。


「今度のテスト100点にしてください!」

「馬鹿者!寝言は寝て言えッ!」


 あれっ?藤宮さんが乗り移ったかのような言葉だった。一瞬ドキッとした。


 その言葉にクラスは

「そっかぁもうすぐかぁ」

「あぁ……台風来ないかな」

「まだ早いだろう」

「私はバッチリよ」

「お願い〜教えて〜」


 等など阿鼻叫喚の嵐である。


「まぁわかってるとは思うが、今度高校生活初めてのテストだ。まぁ、気楽に頑張れ。ちなみに赤点は30点以下だ」


「げぇぇ」

「厳しぃ〜」


 勉強できない組の発言が木霊する。

 そんな僕は余裕しゃくしゃくだ!まぁ楽しみにしててよ!


 そして昼休みになり学食に僕と藤宮さんで行く。最近の恒例行事で僕の楽しみの一つだ。

 最近では藤宮さんに声をかけてくる男連中はいないと聞く。


 なんでも、モテ川先輩を盛大に振った噂が流れている。それにこんな噂も……


「藤宮さんの隣には変態がいつも張り付いている」

「アイツは藤宮さんのストーカー」

「なんでもバイト先にも押しかけてるそうだ」

「それに何度もめげずにアタックをしている」

「やべぇやつだ……」

「やべぇやつだ……」


 まぁ事実とは1部異なるけど、藤宮さんに寄り付く男が減ったのなら問題なし。


 そんな藤宮さんの今日のメニュー


『五目焼きそば大盛り、ごま塩おにぎり・銀ジャケおにぎり・だし巻き卵焼き・鯖の味噌煮・フルーツタルト・苺のムースケーキ』


 うんいつも通りだ。


「あぁ藤宮さん!」

「んぁ……んぐ、どうした?」

「卵焼きなら僕のをあげたのに〜」


 いつも僕は卵焼きを藤宮さんに渡そうとするが断られる。

 なんでかって?


「いや、いらねぇよ。だってお前のおかず……」


 藤宮さんは僕の弁当を見て悲しそうな顔をする。


「それだけじゃん……」


 そういう事である。


「藤宮さんには食べて欲しいんだけどなぁ」

「はいはい今度な!」


 彼女は鯖の味噌煮を半切れくれた。


「ありがとう藤宮さん!」


 いつもはこの1品で終わりだが今日は違った。


「フルーツタルト……半分やるよ」


 なんとデザートまで付いてきた!

 これは交換日記の成果かな!

 そんな事を考えながら藤宮さんとの楽しい一時が終わっていく。



 交換日記を開始して、僕のおかずは2つに増えた!

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