響矢凪四景
#響矢凪駅
この町は造りが独特みたいで、風が強く吹くと矢を放った時の鳥の様な音を響かせるので
響矢凪なんて名前が付いてるらしい。 普通の町では見かけないストロー位の穴が壁にあって
これも音を出す為の工夫の1つらしい。何処かでピューヒョロロとなっている。
私には風の出す音に聞こえたけど、駅員さんが言うにはあれはヒビキヤナギキツツキらしい。
この町の由来の1つでもあり、凄い勢いで飛んでくるので稀に怪我をする人がいるみたいで
この町の屋根や傘に大きな目玉模様が描かれているのはそういった事からだそうだ。
う~ん、怖いので私は日傘を買って歩くことにしよう。
#コルク店
和風な作りが目立つこの町では珍しい洋風のお店がある。
「すみません」と体を半分ほど曲げて小さい入口から中へ入ると、壁にびっしりコルクが置いてあった。
誰も居ないのであれ?と不安がっていると「いらっしゃい」と中年の夫婦が出迎えてくれた。
「お姉さん、コルクを買っていくのかい?それとも想いをワインにしていくのかい?」
うん?良く分からないなと困った顔をしていると、奥さんが説明してくれた。
「うちに有るコルクはね、空き瓶に想いを込めて栓をするとワインを作ってくれるんだよ」
正直、ちょっと胡散臭いと感じてしまっていると旦那さんが続けてこう言った。
「空き瓶からワインが出来るわけないと思うでしょ?じゃあ、作ってみようか特別に一本」
「じゃあ、このコルクで作ってみます…」“louv fuka”と書かれた知らない産地のコルクをテーブルに置いた。
「コルクによって想いを美味しく作れる、作れないがあるのね。これだと、憂鬱な恋愛が最高ね。」
「そんな恋愛があるなら、空き瓶に言ってごらん。まぁ、それじゃなくても良いけどさ。」
私にはある。好きになってしまった恋人のいる職場の先輩でのそんな恋が。
私は今までの想いを瓶に話しかけた。瓶の中で声が響く。そしてコルクをギュッと押し込んで栓をした。
薄い緑の空き瓶は何時の間にか濃い黒になっていた。
「はい、これが君の作ったワイン。美味しそうだから、売って欲しいけどやっぱり君にあげよう。」
「橋田さん、最近失恋したらしいからこれ飲みたいかもね。」
「あの、売ってく人もいるんですか?」
「そうだね、これなんかは不倫の罪悪感の味で、こっちは国家試験合格の喜びをだね。」
私はそこでコルクを3つと、名前を見ないでランダムに三本、誰かの想いが詰まったワインを買った。
家に着いた時が楽しみだ。
#とある何でもない道でのちょっとした光景
坂を歩く、仲の良さそうな男女。
彼等はお互いに楽しく会話をしているけど、手をどうもぎこちなく動かしている。
私はこれを勝手に、自然な成り行きでなんとか手を繋ぎたいんだねと思っている。
でも大丈夫、君達はいずれそうなるとお日様が予知しているよ。
足元から伸びる影は、二人の手を繋いでいるのだから。
もしそうならば大丈夫だよ。
#走る野菜
町から村っぽい所に来てしまった。恐らく、地面の虫を取ろうとしたんだろう
ヒビキヤナギキツツキがアスファルトに激突して一羽死んでいた。
絶滅危惧種に登録されている理由が何となく分かった気がした。
しかし、ずっと畑と家だけが続くなぁ…やっぱり引き返そうかと思っていると
向こうからおばちゃんが原付で「まて~」と走って来た。
何を追いかけてるのか双眼鏡で覗くと足の生えた蕪だった。
とにかく小さい足を物凄い勢いで回転させて走っている。
唖然としていると二人は私が来た道の方へと消えて行った。
他にも見れるのかと私は足を前に進めると、看板があった。
ちょっと錆が濃くて読めない所もあるけれど分かった事がある。
どうやら、八百万の神に足の神様がいて
それが此処に住んで居る為に野菜に足が生えているらしい。
引っこ抜かれた野菜は目的地も無く逃げ出すそうである。
ただ、足の速い野菜はかなり美味しいらしい。
そして美味しい野菜は、足の神様がいるとされる祠に備えるのだそうだ。
あの蕪はどれほど美味しかったのだろう…。
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