短編詩#30

『メル変SICK』

空に敷かれた土の上を歩く民

雲の水を吸い困らない生えた木々

住まいが無く穴の中で廃水に溺れる妖精

白蟻に喰われて毒を塗った菓子の家

落としても選択の無い池


此処はメルヘンチック

それでも憧れた場所


立て篭もるも喰われた子豚達の訃報

腸が石にすり替えられた溺死の狼

嘘から真へ転位し無惨な羊達

赤頭巾は家に着く前の風で全てを知る


此処はメルヘンチック

それでも憧れた場所


国の王様は裸で町を出歩き

親指のお姫様は見世物小屋へ

蟻は労働に病み蟋蟀は自由を売っ払う

人魚は泡になる前にその肉を狩られた


此処はメルヘンチック

それでも憧れた場所




『愛伝ティティー』

私はティティー

愛を伝える者

自分とは何か分からなくて

嫌悪する人々に

愛する事を教えてるの

今日もまた一人

自我に背けてる人がいる


剃刀を捨てなさい

鏡を見なさい

あなたは綺麗な肌をしている

あなたの肉体はこう出来てる

あなたの自我は決して

歪んじゃいないのよ

自分は他人ではなくて

自分は自分なのよ

そう 同一なのよ

プールへ行きましょう

水面に写るあなたと

飛び込んで一つに重なりなさい


今日も一人

自身と重なった人が出来た

でもまた一人また一人と

生まれていく

それは決して消えはしない

私自身も誰なのか分からない

何故 愛を伝える者なのか

知らぬ間にそうだった

そんな私が伝えるのは

おかしい事なのだけど

人は皆 重なっていく

だから私は確認出来ない

自己と使命を無視して

今日も重ねてく




『月からの鉛の襲撃』

宇宙の夜に蕩けたネオン

沈澱するアンビエントを聴く

液体ファンクは静かに走る


老いた舟を筏で漕ぐ

流木は顔を臥せている

水鏡 何時まで空を真似る


手足だけの汚れし生き物は

マンホールの蓋から出て

藻掻く様に地面を動く

バイクに轢死されるまで


星屑にも温度はなかった

光の直線もそのようだった


お休みに連れ去られていく

そっぽの三日月は満月になり

遠浅な水辺の様なこの町を

月は鉛で襲撃しようとするのに

斥力の装置を上空に向けよう

パラボラに電気はまだ

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