露出者

 何時だったか、海を朝五時に見に行った。私はそれが日課だった。もう季節は太陽を直ぐに出したがるから、起きた時は海に行く前に太陽を拝められてしまう。私は海でなければならないのさ。いつの間に変わったのか、私は18年も生きていて分からないよ。私はそれでも構わずバイクを走らせて海へ行く。




 あのオレンジを見るのが好きなのだ。それに似合う物があの海の波だったんだよ。私は夕方の赤を強めにしたオレンジ色の空が好きではない。都会の方へと通学し、変える頃に見せるそれは、私の背中に確かに伸し掛かる。




 海に着いて流れて置き去りにされた、削れて丸み帯びた気に腰掛けてそれを待つ。オレンジの太陽はまだあって空も色褪せてない。無言でそれを眺める。私は目撃者である筈なのに太陽が白く空が水色になる時を見れないでいる。顔を見せない人達の供述の様だ。




 その日は少しだけ違っていた。海面に何かが除かせていて、それは段々と砂浜に近付いて来た。それは人間で身の引き締まった裸の男性だった。私は突然の出来ごとに唖然としていた。男は私を見掛けると歩きよって来た。その姿に私は怯える事は無かった。男の姿がその様に見えたからだ。




 「イヴ?」男は私にそう話しかけて来た。私はその第一声が何なのか分からなかった。「イヴ?」男はもう一度それを言うと「アダム」と言った。昔聞いた人類の誕生日を思い出した。私はおかしくなった人なのかと不安が体を染めたけど、本物の様な気がしてた。私がおかしくなったのかもしれない。「いや、イヴではないよ。」私はそう返した。




 「楽園を追放されて、輪廻を繰り返して海亀の卵になったのだけれど、そこからイヴの行方が分からないんだ。僕はこうして人間で有るんだけど…。」アダムと名乗る男は私に現状を説明するのだった。二人は海亀の雛となり仲良く海を泳ぐ筈だったのだろう。そして在るべき人間の姿として、この海から陸に上がる筈だったのだろう。しかし、イヴは産まれた時にアダムと一緒になる事は無かった。産まれるのが少し遅れてしまって、今も海亀のまま泳いでるのかもしれない。または鴎が産まれる前にイヴの卵を食べてしまったのかも知れない。または、イヴが先に産まれて泳いでいるか人間としているのかもしれない。そうなると、また違う物に輪廻をしてしまったのかもれない。輪廻の輪には滞在出来るのだろうか。そこでアダムを待っているのかもしれない。けど、意思も無かった時にそれは繰り返せるのかな。イヴは本当に居なくなったのかもしれない。アダムには今の現状はとても残酷な事になってしまった。




 アダムはこの運命を知っているのだろうか。いつも二人は一緒だった。それがもう限り無く遠い物になってしまった。「言わなくても良いよ、イヴはもう此所には多分居ない。輪廻の輪にも居ないだろう。僕達は輪の流れに従うしかないんだ。早く泳ぐ事も遅く泳ぐ事も出来ない。僕が今死んだとして、輪廻の輪にイヴが居たとしてもイヴを見掛ける事なんてもう無いんだよ。」




 アダムは知って居た。「じゃあ、あなたはどうするの?」私はアダムに問い掛けた。「この海に上がる約束をしたんだ。卵になる前に。今はまだ、海亀として泳いで居るのかもしれない。僕は人間になってしまったから、人並みの人生しか待てない。海亀の一生は長いからね。その間に此所に上がって来てくれれば良いのだけれどね。」アダムはそう言うと私の隣りに座った。




「待つんだねイヴを。見付けたらどうするの?」アダムは言う。「僕達は死ぬ時はいつも居っしょなんだ。もし死ぬ頃に来たら生まれたてのイヴと心中しなきゃならないな。離れない為には居っしょに死がなきゃならないんだ。」いつの間にか、朝の8時になっていた。鴎が来ないのはイヴを食べてしまってからなのだろうか。私は変える事にした。「アダム、あなたの前にイヴが現れる事を願ってるよ。」アダムは海を眺めていた。私は聞いていたのかを確認せずスクーターを走らせた。確認する必要など、ほんとは無いのだ。アダムはイヴを待ち続ける。




翌日、また同じ場所に行ったのだけれど、アダムの姿を見付ける事は出来なかった。けど60年後、海辺で身元の知らない老人と若い女性が裸で死んでるのをニュースで見て、私はホッと胸を撫で下ろす事を知らないで、今日も海を眺める。

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