第11話 さとりんの書


 それから胡椒の街まで戻って北に向けて歩き出した。

 こっちの方角に神殿があって、そこでは職業を変えられるらしい。うちは魔法使いに愛着あるし別に変えたないけどな。

 神殿を「ブクマ」してさらに北へ向かう。塔があって息子さんがまたずんずん進んでいく。道に迷わへんのはもう慣れた。

 最上階のちょっと手前くらいで息子さんが急にうろうろしはじめた。珍しく道迷たんかなとおもてたら、ものすごい絶叫があたりに響きわたった。「デスメタルスライム」いうモンスターが現れた! それもめっちゃいっぱい。うちは耳塞ぎそうになる。うちらが一瞬怯んだうちにデスメタルスライムの何匹かがものすごい勢いで逃げだす。

「“も”は毒粉! “い”、“か”、戦え」

 そろそろ忘れられてるかもしれへんけど、“も”は戦士さん、“い”は盗賊さん、“か”はうちのことやで。立派な本名あるのにこんな呼ばれ方するのちょっとかなしいけどな。

「わ、わかりました」

 息子さんと戦士さんは毒粉を使うと、デスメタルスライムはラリりだした。味方殴ったり、味方に火炎呪文を使こうたりしてる。うちは毒針でデスメタルスライムをぶっ刺す。あたったらあかんとこに毒針があたったらしくてデスメタルスライムは悶絶して一撃で死んだ。なにこの針。こわい。間違って自分刺したらうちも死んでまうんやろか。

「“も”、自害しろ」

 息子さんがとんでもないこというた。

 れーじゅによって命じられた戦士さんが悲痛な顔しながら、「絶対、絶対生き返らせてくださいね? 約束ですよ」いうて、自分の胸を剣で突き刺した。

 うちはデスメタルスライムに負けへんくらい絶叫した。

「せ、戦士さん!? 戦士さん!!?」

 すがりつくけど、あかん。もうつめたなってる。こうなったらもうやくくさも効けへん。

「息子さん、なんでこないなこと」

「経験値分配のためだ。“い”、あとは任せたぞ」

「任されました」

 息子さんは戦士さんから取り上げた剣で自分も突き刺して死んだ。

 なんでなん。意味わからへんやん。みんなでなかよう冒険したらええやん。なんで死ななあかんの? 大きなことを成すには時として犠牲も必要なん? 全員揃って生き乗るやなんて甘っちょろいことなん? RTAってなんなん。こないなことまでしてせーなあかんことなん。

 うちは泣きながら毒粉を撒いてデスメタルスライムをラリらせて毒針で狩り続けた。さすがの盗賊さんも目が死んでた。デスメタルスライムの絶叫がずっと耳に残る。

 盗賊さんのレベルが20になったところで、うちらはロープの上から飛び降りて宝箱を開けた。

 宝箱の中には「さとりんの書」があった。

 盗賊さんが熱心にその本を読んでる。

 横から覗いてみたら、ごっつぅエロかった。

 あかんて。

 さとりん、あかんて。そんなふうに自分を安売りしたらあかんよって。

 一時のお金は貰えるかもしれへんけどあとで後悔が残るよって。

 そんなん、そんなん、あかんやん。あかんやん。

 さとりんの書はすごかった

 ちょっと描写しきられへんエロさやった。

 まさかこの世にあんなエロいもんがあるとは。


 盗賊さんは賢者になった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る