第24話 魔王と御剣の妹・勇者2

「ひんひん、お姉様、頭が割れるかと思いましたよぅ……」


 今も横でぐずっているケイは無視して、『勇者』の二人を追う。

 正確には『勇者』は一人か。

 いきなり熊みてぇな魔物が現れて、兵士達がぶっ飛ばされた。

 よ、弱いな。

 あいつらなンで一緒に来てンの?

 おーおー、可哀相に、震えてんじゃン?

 つか、不味いな。

 『鑑定』で見たが、召喚されて1もレベルが上がってねぇあいつらに、勝てる相手じゃねぇ。



エルダーグリズリー♂(18歳)





Lv.91


HP    143000/143000


MP    0/0


こうげき力 8041   


しゅび力  6810   


ちから   8041


まりょく  0


たいりょく 6810


すばやさ  4466


きようさ  161


みりょく  1



 チッ、きようさが低いから、直撃さえしなけりゃ死なねぇかもしンねぇけどさ!


「ケイ、ここに居な」


「お、お姉様?」


「このまま見過ごすンも寝覚めが悪ぃかンな。ちょっと助けてくる」


「ふふ、分かりました。お姉様なら、そうするって思ってましたから」


 そう微笑むケイを見てから、魔物の元へ駆ける。


「ミン、お前は逃げろっ!ここは俺に任せるんだっ!」


「い、嫌だよお兄ちゃん!私だけ助かったって、お兄ちゃんが居ないなんてっ!」


「グオォォォッ!!」


「「!!」」


 熊の一撃を、避けようともしない二人に苛立ちを覚えながら、熊を蹴飛ばす。


「グギャァァッ!?」


 木にその巨体がぶつかり、メキメキという音を立てながら、木が倒れた。


「あ、貴女は……?」


「私は御剣。あンたらも召喚された口だろ?助けてやっから、下がってな」


「む、無茶だ!熊だぞ!?」


「あー、あンたらなんの説明も受けてないンか?『鑑定』っての、できる?」


 そう言われて気付いたのか、二人は慌てて熊と私を『鑑定』したようだ。

 ま、私のステータスは見れなかっただろうけど。


「熊の力は、やっぱり俺達より大分上じゃないかっ……!それに御剣って言ったね。君のステータスは、何故か見れなかった……!」


「説明は後。まずは、この熊片づけっから」


『アイテムポーチ』から、買った剣を取り出す。

 今の熊のHPは112810か。

 まだまだ元気一杯じゃン?

 立ち上がり、こちらを向いて吼(ほ)える熊。

 うるせぇなぁ、今一生鳴けなくしてやンよっ!

 熊の背後に周り込み、飛び蹴りを頭にかましてやる。

 今後は吹き飛ばずに、熊は一回転した。

 ンだとっ!?

 その予想外な動きから繰り出されるパンチを、モロに受けてしまった。


「御剣さんっ!!」


「いやぁっ!!」


 今度は反対に、熊にぶっ飛ばされる。

 それを見て二人が叫ぶ。

 チッ、ギャラリーが居るってのはめんどくせぇな。

 実際、私のHPは1しか減ってねンだが、服は少し破けたな。

 もちっと他の事を試してみたかったンだが……しゃーねぇ、今回はコレで一気にケリをつけンか。


 ドゴオオオオン!!バヂバヂバヂバヂ!!


「「なっ!?」」


 雷が私の剣に落ちる。

 それを見た熊が、一歩後ずさったのを私は見逃さない。

 分かンか?お前の死が近づいてるってさ。


「くたばりなぁっ!!『ギガストラッシュ』!」


 熊を一刀両断にした。

 雄たけびをあげながら、熊は消滅した。

 おっ、レベル上がった。

 中々美味しいじゃん、魔物って。

 剣を『アイテムポーチ』には仕舞わず、腰に下げる事にした。

 この森を探索するなら、いちいち取り出すのはめんどくさいかンな。


「ありがとう、助かったよ御剣さん!!」


「本当に!もうダメかと思って!ありがとうございます、御剣さん!私、槇村(まきむら) 味醂(みりん)って言います!」


「あ、俺は槇村 重雄って言うんだ。歳は18で、高校三年だ」


「あー、パイセン(せんぱい)っスね。私は16で、そこの味醂さンと一緒です」


「同い年なんだ!?やったぁ!」


「はは、良かったなミン」


「そンじゃ、私はこれで」


 なンで喜んでるのか分かンねぇけど、私はこの場から去ろうと歩きだす。

 レベル上げしたいのは、私もだかンな。

 そう思っていたのに、呼び止められる。


「待って、待って!御剣さんも、この世界に召喚されて、『魔王』を倒しに行くんでしょ!?なら、一緒に行こうよ!」


「そうだな、今は俺達弱いけど……レベルを上げれば、きっと役に立つはずだから!」


 そう言ってくれンけど……あいつらが元の世界に戻してくれるっての、どうもうさんくさいンだよな。


「なぁ、槇村パイセンと味醂さンは、元の世界に帰れるって聞いたン?」


「え?うん、『魔王』を倒してくれたら、帰すって言ってくれたよ。それに、『魔王』に民達が苦しめられてるって聞いた。そんなの許せないからな!」


「うん、お兄ちゃん!せっかく異世界召喚っていうレアな体験したんだもん。力があるなら、それを皆の為に使いたいもんね!」


 あー、こいつら典型的なアレだな。

 召喚された事を喜んじゃってる系だ。

 なんの疑いも持ってねぇ。


「本当に、そうなンかな?」


「「え?」」


「『魔王』を倒したら、本当に帰れンかな?それに、『魔王』は本当に、聖大陸を侵攻してンかな?」


「どういう、事だい?」


「それは、自分の目で調べて欲しいですね槇村パイセン。私、自分と同じ考えできる人以外とつるむ気ないンで。それじゃ」


「あっ!御剣さん!せ、せめて、下の名前を、教えてほしいの!」


 めんどくせぇな。

 そんなもン知ってどうすンだよ。


「玲於奈。御剣 玲於奈だよ。これで満足?」


「御剣、玲於奈ちゃん……!」


 なんか目を輝かせてンだけど……どういうこったよ。


「え?御剣、玲於奈……?」


 こっちは、なんか意外そうな顔をしてるような。


「あ……あぁぁぁっ!思い出した!御剣の妹さんか!?」


「御剣は確かに私ですけど?」


「あ、いや、そうじゃなくて!いつも御剣が、ええと照矢が話してた、妹さん!?」


 その言葉に、私は食いつく。


「兄ちゃんの事、知ってるンスか槇村パイセン!?」


「あ、ああ、御剣とは友達だったからさ。あいつ、なんでも嫌がらずに引き受けてくれるだろ?だから、友達は多いんだよ。俺もその一人ってだけだけど……」


 間違いない、槇村パイセンは兄ちゃんの友達なンだろう。

 兄ちゃんの性格を知ってる。

 そして思い出す。

 私が兄ちゃんの情報を調べていた時に見た動画。

 あれに映っていたのが、この槇村パイセンだ。


「槇村パイセン、兄ちゃんを最後に見たのいつですか?金曜日に兄ちゃんが帰ってこなくて、探してたら私も召喚されちゃったンで」


「金曜日に御剣が?金曜日って言うと、野球を最後にしたかな……。そいや、御剣が俺の球を打って、走りだした時に光ったんだよ。あれは御剣の手品かと思って、皆で笑ってたんだけど……今なら分かる。多分あいつも召喚されたんじゃないか?」


 やっぱ、そうだよな。

 って事は、兄ちゃんももしかしたら、この世界に居るかもしれねぇンだ!

 これは、魔大陸に『魔王』を倒しに行ってる場合じゃねぇな。

 槇村兄妹みてぇに、どっか他の国に召喚されちまってる可能性が高い。

 あ、でもそう考えたら、魔大陸に居れば、兄ちゃんと会える可能性が高い、か?

 つか、『魔王』のとこに居れば、兄ちゃんと会えんじゃね!?

 私は手掛かりを得て、興奮してきた。

 兄ちゃんに、会えるかもしれない!


「槇村パイセン、情報感謝っス。もし兄ちゃんに会ったら、妹が探してたって伝えて貰っても良いですか?」


「分かった。命を助けて貰った上に、友達の妹さんの頼みだ、約束するよ」


 そう笑って言う槇村パイセンは、良い人なんだと思った。

 流石は兄ちゃんの友達だな。


「あ、あの!れ、玲於奈、ちゃん。って呼んでも、良いですか?」


「はぁ、好きに呼んで良いけど、タメなンだから、敬語とかいらねぇよ。私も敬語苦手だし」


「あはは……了解!私、玲於奈ちゃんが言ってた言葉、ちゃんと考えてみる!」


「ああ、俺もだ。言われて見れば、まだ何も分からないのに、『魔王』を悪と決めつけるのもおかしいもんな。まぁ、まずはレベル上げからだけどさ」


「あはは、だねお兄ちゃん」


 ……うん、ちょっと気が変わった。


「でてきなケイ、少しこの二人とレベル上げすっから、紹介すンよ」


「は、はいー……」


「「巫女さん!?」」


 二人が驚いてるけど、まぁそういう反応になるよな。

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