第1話 いのちの記憶

ジリリリリリンッ


「ちっ」


 もう、うるさいなあ。起きてるよ。

 目覚まし時計を止める。

 だだだと階段を下りてキッチンへ向かう。


「あら、いっちゃんもうご飯できてるわよ。」

「ありがとう。あれ、お父さんは?」

「お父さんならもう仕事に出かけたわよ。」

「ふーん。」

「食べたらお布団に行ってよく休むのよ。」

「別に。もうだいぶ良くなったし大丈夫だよ。それより学校行きたいんだけど。

 サボってる気がしてなんか嫌だし、授業ついていけなくなるのも困る。」

「だーめよ!まだ安静にしていなきゃ」

 

 母に冷たい手をおでこに押し付けられてひやりとする。ゔっ冷たい…。


「ほら!まだ熱下がってないじゃない!今日も先生に連絡入れておくから、お布団に入ってゆっくりしなさい!」

「そんなん、お母さんの手が冷たいだけじゃんね。」


 ぶつぶつと文句をたれながら2階の自分の部屋に戻って布団に入る。

 布団は寝汗でびっちょりとしてて眠る気になれない。どうしたものか…と考えて いると階段を上る音がする。私がちゃんと布団に入ったか確認に来たのだろう。

 ドアを開けられる前に急いで布団に入る。


「あら、ちゃんとお布団に入ってたのね、よかったわ。」

「大丈夫だって別に。本人は何ともないって言ってるじゃん。」

「でもいっちゃん。私、とっても心配で。ってあら!」


 布団越しに私に左手を添えようとして布団が濡れていることに気が付く。


「あらたいへん!こんなところじゃ眠れないわね。こんなに寝汗かいて。どこが大丈夫なのかしら全く…」


 そういいながら母は私にソファで横になるように言い、ブランケットと毛布を上からかぶせる。できればテレビを見たかったが、本体の電源を入れては消され、母にリモコンまで取られてしまったのでつけ様がない。仕方がないので目をつぶると、暖かくふわっとしたブランケットに包まれる感覚とともに眠りにつく。


「はい。…です。ご様子は大丈夫そうですか?はい…ですか…」

「わざ…がとうね~!いっちゃんに優しい友達が…ったわ」

「いえ…せん…れただけで…」

「あら!そうなの。それでもうれしいわあ!ありがとうね、温海あつみちゃん。」


 目が覚めると誰かが来ていてお母さんと話している。誰なのか気になって体を少 し起こすが、体が重たく感じたので再び横になり目を閉じる―


「…ちゃん!…ちゃん!いっちゃん!」


 いつの間にか眠っていたようで目の前が暗い。重たい瞼を薄く開けると、目に映 る嬉しそうな母の笑みと、プリントと―ノート?


「いっちゃんの学校のお友達がね、ノート!持ってきてくれたんだって。いっちゃんの気にしてたプリントや宿題もたくさんあるみたいよ?」


あぁ、もう一週間も学校を休んでいるから心配になった担任がノートを届けるように言ったのだろう。母から受け取ったノートを開くと、そこにはとてもきれいな字でまとめた授業内容が記されており、これを読んだだけで授業内容を理解した気分になれそうなほどわかりやすくまとめてある。


「よし!次あてられた時に困るから上で勉強してくるね。おかあさん。」

「そうね。だいぶ熱も引いたみたいだし大丈夫かな。勉強するならおやついる?」

「んーもう夕方だし、夜ご飯をたくさん食べるよ。」


 そう言って階段を上り部屋に向かう。

 

「明日からの学校…違った今日はもう金曜日か。」

 

 月曜日からの登校に向けて、私は準備を始めた。


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