第61話 吸血鬼流ジョーク

 クレアさんとシアの水着客引きは、売り上げ的には大成功だった。

 次々と店内に訪れる客にフィオナとムラサメが忙しく対応している。

 俺もまた仕事に追われており、売り切れた魔導具を補充するために倉庫と店内を往復する。


 しばらくすれば、客足も遠のいてきた。

 ようやく一息つけそうだ。


「ま、マスター……ムラサメ、疲れました!」

「奥で少し休憩するといい。代わりに俺が接客しておくから」


 疲労がたまったのか、ふらふらしているムラサメをカウンターの奥で休ませ、代わりに俺が表に出る。


「すごい客の数でしたね。数日分の労働をした気がします」


 体力が多いフィオナはまだまだ働けそうだ。

 服の袖をまくりあげ、二の腕をさらした彼女はまるで女将のように見えた。

 フィオナと共に接客をしていると、ドアが開かれて小柄な影が店内に入ってくる。


「リオンさん! なんかお店の前に露出狂さんがいるよ!」


 来店したのはマシロだった。

 

「お前、色白吸血鬼はともかく、村長を露出狂呼ばわりするとは不届き者め」

「えー、だって事実じゃん。あんな格好で外に出るなんて露出狂以外の何者でもないよ。というかあれ、もしかしてリオンさんがさせてるの?」

「ああ、そうだ。俺は以前、あの二人に屈辱を受けた。だから仕返しにあんな格好で客引きさせている」

「うわ……リオンさん変態だね」


 最近女の子からよく変態と言われるような気がする……。


「リオンは変態ですけど、良い変態ですよ」


 フォローになっているかどうか分からない言葉で妻に慰められる。

 俺は咳払いをした後、マシロに問いかけた。


「クロエの調子はどうだ」

「だいぶ熱は引いたみたい。でもまだまだ油断はできないから、アルフくんとわたしで看病してる」

「アルフはクロエと接していて大丈夫か」

「えっ、どうして?」

「あー、いや……なんでもない」


 どうやらマシロは未だにアルフがクロエを好いていることに気づいてないようだ。

 まあ、おしゃべりのマシロがそれを知れば、すぐにクロエに伝えてしまうことは想像に難くないので、都合が良かった。


「ユーノはどうしてる?」

「たまに顔を見せに来るよ。なんかやたらとニヤニヤしてアルフくんとクロエを見つめてから帰るけど、なんなんだろう」

「あの気まぐれにゃんこの様子は気にしないでくれ」

「気まぐれにゃんこ……」


 マシロと会話していると、再びドアが開かれて、クレアさんとシアが店内に入ってくる。

 クレアさんは平気そうだが、シアはふらふらと壁に寄りかかって気怠そうに息を吐いた。


「暑い……肌が焼ける……灰になってしまう……」

「よく頑張ってくれたな。もう少しで閉店時間だから、それまで休んでおいて構わない」

「うぅ……お水ください。あるいは美少女の血液を」


 真紅の瞳でマシロを見て、にやりと犬歯を剥き出しにしたシア。

 マシロはぶるぶると震え、素早く俺の後ろに隠れた。


「こ、怖い……吸血鬼って人の生き血を啜って殺す悪い種族でしょ? なんでこの村にいるの!?」

「ふふ……なぜでしょうね……」

「ひいぃ! ふらふら近寄ってこないで!」


 わざとらしく妖しげな笑みを浮かべ、マシロに歩み寄るシア。

 血に飢えている水着姿の吸血鬼に俺は立ちはだかる。


「どいてください、私は一刻も早く美少女の血を吸わないと干からびてしまいます」

「お前……前々から思っていたが、同性愛者なのか?」

「いえ、ただ美しいものが好きなだけの無害な吸血鬼ですよ」


 シアは獲物を見つけた肉食獣の如き目でマシロに視線を注ぎ続ける。

 そんな様子を、クレアさんが呆れたように見ていた。


「おい、変態吸血鬼。あまり小娘を怖がらせるでない」

「じゃあクレア、あなたの血を飲ませてください」

「断る。自分の腕にでも噛み付いていろ」

「なるほど、その手がありましたか。かぷり」


 シアは自分の腕に牙を立てた。

 ちゅうちゅうと自分の血を吸い出す吸血鬼に、この場の全員が若干引いていた。

 シアは真顔になって、腕から口を離す。


「そんなに引かないでください。ただの吸血鬼流ジョークですよ」

「いや……ジョークでも笑えないし」


 マシロの的確な突っ込みに、俺とフィオナはうなずいた。


 


 


 

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