第52話 秘密の検査
「ありがとう、アイネさん」
俺はアイネさんに礼を言う。
フィオナとの結婚を祝福されたことが素直に嬉しい。
アイネさんはセンリと目配せした後に、地下室から出ていった。
この地下室にはベッドやトイレなど生活に最低限のものしかなかった。
俺は鉄柵の外にいるセンリに呼びかける。
「なあ、センリ。身体の汗を拭いたい。水で濡らした布を持ってきてくれないか」
「承知した。少し待っていてくれ」
センリはうなずき、地下室を出ていく。
俺はセンリが戻るまで、ベッドに横たわっていた。
センリが持ってきてくれた布を渡された後、俺は服を脱いで身体を拭く。
破壊魔との戦闘で疲弊した筋肉が悲鳴を上げる。
妖刀ムラサメと同調した瞬間は有り余る力を感じたが、それだけ動いた後の反動が強いらしい。
下半身を拭いている間、センリは律儀に後ろを向いていてくれた。
灰色の尻尾がぴんっと直立していたので、もしかしたらセンリは男の裸を見るのに緊張しているのかもしれなかった。
身体を拭き終わり、服を着てから再びベッドに横たわった。
やることもないし、体力回復のために寝ておこう。
目蓋を閉じると、瞬く間に眠りのうちへと誘われていった。
……なにやら、寝苦しさを覚えた俺は、目を覚ました。
「起きましたか、リオン」
シアがベッドのそばに立っていて、俺を見下ろしている。
更にはクレアさんまで地下牢のなかにいる。
俺は二人の女性を前にして、上体を起こそうとした。
しかし、まったく力が入らない。
まるで全身の筋肉を喪失したような虚脱感に動揺する。
「ああ、動かないでくださいね。といっても、動けないでしょうけど」
「シア、俺になにをした?」
「あなたには催眠をかけています。まあ、今から起こる出来事は夢だと思っていただければ」
シアは吸血鬼特有の長い犬歯を覗かせ、妖しく笑った。
視線を牢の外に向けると、アイネさんとセンリがこちらを窺っている。
「あわわ……どうしよう、やっぱり止めたほうがいいかな?」
「やめましょう、アイネ様。これは必要な検査で、リオン殿と妖刀の同調率を確かめるための最終工程なのです……とクレア様がおっしゃっていましたので」
アイネさんはあわあわとしており、センリは若干こちらから視線を逸らしている。
一体これから俺の身に何が起きるんだ……。
シアがベッドの上に乗り、四つん這いになって俺にその美麗な顔を近づける。
「まずは服を脱がしますね」
「ちょっと待て、それはおかしい」
「服の上からじゃあまり気持ちよくないと思いますよ?」
「いや、別に気持ちよくなくて構わない。というか、なんの真似だこれは」
「あなたと妖刀の同調率を確かめます」
さきほどアイネさんと確かめたはずだが。
それだけじゃ何か不備があったのだろうか。
困惑する俺に対し、シアが俺の服に手をかける。
身体が勝手に服を脱がしやすいように動いた。まるで操り人形のような気持ちだ。
上半身を裸にされた俺。
寄り添ってきたシアに胸板を撫でられて、背筋がぞっとする。
女の香りが鼻孔を刺激して、頭がくらくらしてきた。
「ふむ。よく鍛えていますね。筋肉量は大体レインと同程度でしょうか」
レインって誰だよ。
俺はもうわけがわからず、ただされるがままになる。
ズボンとパンツまで脱がされた俺は、素っ裸をクレアさんとシア、そしてアイネさんとセンリに見られていた。
恥ずかしい、という気持ちよりも先に、なんでこんな目になっているのだろうと泣きたくなる。
クレアさんが俺の股間を覗き込んで、感嘆の声を上げた。
「ほう、なかなか立派なモノを持っているではないか。アイネ、お前の夫と比べてどちらが大きいのだ?」
「そんなの言えないよ! というかもうやめてあげて、お母さん!」
アイネさんは顔を真っ赤にしながらも俺の味方をしてくれている。
センリは無表情でじっと俺の股間を見つめている。尻尾が横にぶんぶんと揺れていた。
シアは相変わらず華奢な肢体を押し付けてきて、細い指先で胸や下腹を撫でてくる。
混沌とした状況に、俺はもう思考を手放したくなった。
ごめんな、フィオナ。
俺はもう、なんか色々とダメみたいだ。
「そろそろどうだ?」
クレアさんが真紅色の両眼をシアに向けて問う。
「どうでしょうね? そろそろだと思うんですが」
シアもまた鮮血を塗りつけたような赤眼でクレアさんと視線を交わす。
二人はしばらく目を合わせて、そして同時に俺の股間を直視する。
「ここを刺激してみるか」
「刺激すると言っても、私はやり方を知りませんよ」
「嘘をつけ、むっつり吸血鬼。長年の読書で得た知識を披露せんか」
「そういう本は読まないので。というかクレアこそ、実は経験豊富ではないのですか?」
「阿呆か。我に手を出す男などおらんし、おったとしてもそんな幼女性愛者に身を任せると思うか?」
「それもそうですね。じゃあ私がしてみましょうか」
やめろ、するんじゃない。
俺にしていいのはフィオナだけなんだ――ッ!
そう強く想った、その瞬間。
俺の胸元に、ぽんっと出現したのは、鞘に包まれた妖刀ムラサメである。
「成功したな」
「そうみたいですね」
クレアさんとシアは妖刀を見た途端、すぐさま俺から離れた。
そしてもう一切の興味を失くしたように、早足で地下牢から出ていく。
俺は動けるようになったので身体を起こし、妖刀を手に持ちながら全裸のまま叫んだ。
「一体何の検査だったんだよ、こんちくしょおおおおッ!?」
「落ち着いてリオンくん! きゃあああっ、揺れてる、揺れてるから!」
「あれが男性の……なかなか興味深い形をしている」
俺はしばらく荒れに荒れて、アイネさんとセンリを困らせた。
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