こんな異世界転生嫌だ!

文月ヒロ

こんな異世界転生嫌だ!

「という訳で伊世いせ天哉てんやさん、貴方は死んでしまったのです」

「いや、どういう訳だよ!」

 白に包まれた何もない空間。

 俺は、目の前で営業スマイルと共にそんな説明をした美少女に思い切りツッコミを入れた。

 確か数分前まで、下校途中だった俺は道を歩いていたはずだ。

 しかし、どういう訳か意識がプツンッと切れて、気がついたらこんな摩訶不思議な場所にいた。

 何が起こったのか分からず狼狽えていると、急に目の前の彼女が現れてそんなことを言ってのけたのだ。

 これをツッコまずしてどうして話を進められようか?いや、進められない。

 心の中で反語を使ってやった。

「えっ?背中に羽を生やした美少女がいるっていうのに、何で死んだか分からないんですか!?」

「それが分かったら俺はメンタリストかエスパーにでもなってるよ!」

「チッ、めんどくせぇなぁ。…コホンッ、では説明させて頂きますね」

 ……今、何か失礼なことをボソリと言われた気がしたのは、きっと気のせいではない。






 話を要約するとこうだった。


 目の前の金髪美少女は昼寝の最中、寝ぼけてついうっかり雷を落としてしまったそうだ。

 そして、それが運悪く俺という人間に落ちてしまい俺は一瞬で消し炭に……。

「てへっ、ごめんなさい♪」

「ふざけんなッ!!」

「え~、許して下さいよ~。可愛い新米天使のちょっとしたミスじゃないですか~」

 このぶりっ子駄天使を今すぐぶちのめしたい。

 新米天使だか美少女だか何だか知らないが、俺の死をちょっとしたミスで片づけてんじゃねぇ!

 俺は大人だ俺は大人だ、と青筋を浮かべ拳をギュッと握りながらも込み上げてくる怒りを抑えた。

「それで、ここは天国的な所なんでしょうか?」

「いえ、ここは死者が初めに送られてくる場所で、言ってみれば天国or地獄への搭乗口みたいなところです」

「なるほど、じゃあ俺は天国に行けるんでしょうか?」

「プッ、冗談キツイですよ~。どうして貴方ごときが天国へ行けると思うんですか?自意識過剰じゃありません?」

「あんたに殺されたからだよ!!」

「あ~、そんなこともありましたね~」

 男女平等主義のもと、コイツをぶん殴りてぇ!

 つい先ほど起こったことを、まるで何年も前にあった風に言った駄天使を見て俺はそう思った。

 堪忍袋の緒が切れるのも時間の問題だ。

「あの、まさか人を殺しておいて、はい地獄行き、なんてこと言ったりしませんよね?」

「そのまさかなんですよ。いや~、天国行ける人って現世でよっぽど徳を積んでる人なんですよ~。特に可もなく不可もないくらいの徳しか積んでいない貴方じゃ、無理ですね!」

「よし上等だ!表出ろやコラ!」

 どうやら俺の怒りは限界を一気に突き抜けてしまったようだ。

 寝ぼけて人を殺しておいてごめんなさいの一言で片づけ、さらに口が悪い。

 挙げ句の果てには死んだので地獄行きですレッツゴー!冗談じゃない。

 普段大人しい俺でも、これほどの仕打ちを受けて我慢など出来ようはずもない。

 ぶちのめしてやる!


 と、俺が怒りを露にしている最中、突如声がかかった。

「静まりなさい」

 声が聞こえた瞬間、俺の体の動きが止まった。

 動かそうとしても動かない。

 この縛られるような感覚は、今聞こえた声の主の仕業なのだろうと分かった。

 光と共に現れたその正体は、長く白い髭を生やした老人。

 そして、その姿は神々しいものだったから。

 老人が手をスッと挙げると俺は体の自由を取り戻した。

「あ、神様じゃないですかぁ」

「おう、儂の可愛い天使ちゃんや、ささ、こっちに来て事情を説明しておくれ」

「はーい。聞いてください神様ぁ、こいつ人間の癖に私を怖がらせたんですよぉ」

「おお、なんと!それは見過ごせんな!」

「いやいや、俺この天使に殺された挙げ句、はい地獄行きってなったんですよ?怒るに決まってんじゃないですか!」

 大丈夫だ、見ていた感じこの老人は神だ。きっと俺のこの気持ちを理解して天国行きにしてくれるはずだ。

「なるほど、お主の言い分は十分理解できたぞ」

 よし、どうやらこの御老人は話が分かるタイプの神様のようだ。

 俺は状況が優勢になったと見て安堵する。

「よっしゃ、じゃあ俺は天国に……」

「じゃが、それとこれとは別の話」

「はぇ?」

「儂の天使ちゃんが怖い目にあわされたんじゃ、お主には地獄は生温い!」

 俺は一気に顔を青ざめさせる。

 この糞爺ははなから俺の味方などではなかったのだ。

 そう理解すると、すぐさま俺は逃亡を図ろうとする。


 しかし、またも体が縛られる感覚に襲われる。

「なッ!体が動かない!」

「逃がすと思うたか!」

「はは、ざまぁみろってんです。神様、こいつの処分は異世界転生が良いんじゃないですか?」

「さすが儂の天使ちゃんじゃ、そうしようかの」

 異世界転生、何とも良い響きである。

 が、それはこんな状況でなければの話。

 霊体であるらしいはずなのに、俺は冷や汗がまったく止まらない。

「本来なら世界を救うための勇者として、魔王のいる世界へ放り投げるのじゃが、今回は違うぞ小僧」

「い、嫌だ…」

「こんな人間、犬畜生にするべきです。あの世界ならコボルトだったはず、それにすべきです!」

「嫌だ…」

「ふむ、それで決まりじゃ。伊世天哉、お主は天使ちゃんを怖がらせた罪でコボルトに異世界転生とする。加えて、一生童貞という呪い付きじゃ。弱小な者として怯えながら生き、残酷に殺されるがよい!」

「嫌だ嫌だ…」

 一生童貞だと!?

 死ぬ前でさえ童貞だったてのに、またなのか?それにコボルト?


 俺の足元に魔法陣が浮かび、俺は宙に浮く。

「はははは。さぁ、貴方はこれからコボルト、一体どれだけみすぼらしく生きるのかしら?」

「気になるかえ天使ちゃん?」

「はい!」

「じゃ、テレビ中継で見ちゃおうか!」

「いいですね!」

 体が光に包まれて意識も飛んでいく。

 こんな、こんな……

「こんな異世界転生嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

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