(!)カクヨムで小説成分表が義務化されました
ちびまるフォイ
ルールを守って楽しく口論(デュエル)!
「え? 小説の掲載ルールが変わった?」
トップページにはひいきにしている投稿サイトのルールが変わったとのお知らせ。
中身を見てみると、どうやら小説に含まれる成分を事前に書く必要があるらしい。
そういえば、残酷な描写や性的な表現が含まれるかどうかも
ずっとチェックリストにはあった気がする。
「しかし……いったい、どこまでが残酷でエッチな話になるんだろう」
俺から言わせればいきなり鬼ヶ島で鬼をめった切りにする桃太郎は残酷だし、
カップ麺を作る所作を官能的に書けばそれだけで性的なコンテンツになる。
「ま、いいか」
これまで特に問題がなかったんだし、
今さら告知ルールが追加されたとはいえ、なにかが変わるわけでもないと思った。
しばらくして、俺のもとには大量の苦情が出た。
「ちょっと!! いったいどういうつもり!?」
「どういうつもりって、なにがですか?」
「あなたの小説を読んでからしっしんが止まらないのよ!!!
私、異世界アレルギーだから事前に成分表書いてもらわないと困るのよ!!」
「で、でもジャンルは異世界ファンタジーにしていたし……」
「ジャンルなんてみるか!!」
「見ろよ!!」
「とにかく、あなたがちゃんとルールを守って
ちゃんと小説に含まれる成分を記載していれば私も読まなかった!
あなたの怠慢が私の皮膚に打撃を与えたのよ!!!」
「おおげさな……」
「加害者に被害者の気持ちがわかるっていうの!?」
もつれにもつれた口論はやがてサイト運営まで引っ張り出すことになり、
「うるせぇなルールに従えやカス」
の一言で即終了した。無慈悲。
(!)この小説には以下の成分が含まれます。
・ありきたりな展開
・自己陶酔しがちな表現
・読みにくいカタカナ
・くそださい技名
「うーーん……とりあえず今の連載ぶんはこんな感じかなぁ」
お叱りを受けたので成分表を書くことにした。
ここまで書く必要があるのかとも思うし、
まだまだ書くべきのような気もしている。
連載している都合上、あとで新しい成分をぶっこむ可能性もあるかもしれない。
成分表の更新をし忘れてごちゃごちゃ言われるくらいなら、
事前に書いておいたほうが安全なのかもしれない。
「……一応、書いておくか」
連載の1話目は先が気になるようなプロローグにしていたが、
それより先に「小説成分」についての1話を書き足すことになった。
1話まるまる使わないと書ききれないほどに長くなってしまったからだ。
「これでよし。あとは好きに書けるぞ!」
最初に予防線として細かく成分表を書いておいたのはよかったのかもしれない。
このあとで思う存分、好きに書けるというメリットをもたらせてくれた。
そう思っていたのは2度目の苦情が来るまでの短い時間だった。
「ちょっと!! いったいどういうつもり!?」
「今度はなんですか!?」
「最新話であんな急に仲間が死ぬなんて聞いていないわよ!!
前の話で父親と仲直りして、やっとメンバーに加わったところじゃない!!!」
「いやあれはこの展開を書くための前フリで……」
「聞いてないわよ!! そんな急激な展開を書いたから、
私の友達があまりにびっくりしすぎててんかん発作で入院しているのよ!!」
「ええええええ!?」
「あなたが何も事前通告ナシにやったからでしょう! 謝罪!! 謝罪して!!!」
「すみませんでした……」
「謝れば許されると思ってるの!?」
「理不尽か!!」
この一件から再びルールが追加された。
連載作品では次の話の展開をきちんと書かなければならない。
誰が殺され、誰が仲間になるのか、何を手に入れ、何を失うのか。
完結している短編作品については急激なオチがある場合には
(!)この先、驚きの展開があります
や
(!)この先、胸糞悪い要素が含まれます
などの警告文が義務化された。
そして、それらの警告文の数や種類も成分表に記載しなければならない。
読む人は読む前に、何が起きて、どういうことが発生するのかがわかるようになった。
この読者に親切で、作者に不親切なルールは俺を大いに悩ませることになった。
「くそ! ダメだ! 何を書いても面白くならない!!」
書いては消し、書いては消し、を繰り返してスランプスパイラルに巻き込まれてしまった。
なにを書いても事前にバレてしまっては、手品師がタネを見せながらマジックするようなもの。
それに、事前に警告文の数や成分を書けば書くほどに人気は落ちてしまう。
"この小説にはこんなに面白くない成分があります"
と、声高らかに宣言しているようなものだ。
成分表に書く内容は少ないほど読まれるに決まってる。
しかし、面白いものを書くために驚きや感動を与えるためには
どうしても「前フリ」となる仕込みが必要になるジレンマ。
「ああ! いったいどうすれば面白いものが書けるんだーー!!!」
もう執筆から距離を置くことを決めて、トップページのランキングを見ると
なんと俺の小説がまさかのランクインを決めていた。
「え……!? うそだろ!? や、やったーー!!」
見てくれている人はいるんだ。
たとえどんなに事前の展開がわかったとしても実力があれば評価される。
ここは完全なる実力主義と才能が認められる平等で弱肉強食の世界なんだ。
俺は確かめるためにランクインした自身の小説を開いた。
覚えのない小説を見て、やっと記憶が蘇った。
「これ……間違えて投稿した空白だけの小説じゃん……」
成分表も警告文もないその小説は多くの人が喜んで見たという。
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