第247話 南の国

 ギラギラと輝く灼熱の太陽、肌を突き刺す鋭い日差し。炎天下に響き渡る、太陽よりも明るいウルリカ様の声。いつにも増して今日は元気いっぱい、その理由はというと──。


「課外授業なのじゃー!」


 ロアーナの町に続く二度目の課外授業に、ウルリカ様は大はしゃぎなのである。パタパタと走り回ってはピョンピョン飛び跳ね大忙しだ。


「わーいなのじゃ、楽しいのじゃー!」


「お待ちくださいウルリカ様、はぁ……はぁ……」


 追いかけるオリヴィアは汗ビッショリ、今にも暑さに倒れてしまいそう。一方のウルリカ様は、いつもと違って夏用の制服を着ている。風通しのいい薄手の半袖シャツで、ずいぶんと涼しそうだ。


「わーいっす、課外授業っすー!」


 ウルリカ様に負けず劣らず、大はしゃぎのアンナマリア。白い肌に白銀の髪、そして真っ白なワンピース姿。眩い日差しを反射して、キラキラと輝いている。


「ちゃんと誘ってくれてありがとうっす、ウルリカ愛してるっすー!」


「アンナはお子様じゃな、はしゃぎすぎなのじゃ」


「むむっ、ウルリカだってはしゃいでるっす!」


 運動会に出られなかったことを、アンナマリアはずいぶんと悔しがっていた。そして次の学校行事に誘うという約束を、ウルリカ様と取りつけていたのである。その約束をウルリカ様はしっかりと守ったよう。

 それにしてもアンナマリアはアルテミア正教会の教主である、気軽に出かけて大丈夫なのだろうか。


「こら……あまり……遠くにいかない……」


「ウルウルの愛らしさは相変わらずだ、しかしアンナマリア様の愛らしさも捨て難い……」


 はしゃぐ二人を遠くから見守る、アルフレッドとクリスティーナ。今回の課外授業、引率はこの二人なのだ。

 アルフレッドにクリスティーナ、そしてアンナマリアと一風変わった面子である。そして今回の課外授業、訪れた先も一風変わっていた。

 真夏よりも暑い海沿いの大都市、ここはロムルス王国ではない。では一体どこかというと──。


「きゃああっ、待ってたわよーっ!」


 遥か遠くから全力疾走で迫りくる、浅黒い肌の王女様。南ディナール王国の王女エリッサである、すなわち今回の課外授業は南ディナール王国を訪れているのだ。


「ウルウルーっ! ティアお姉様ーっ!」


 エリッサは大興奮で、ウルリカ様とクリスティーナへ飛びかかる。順番に抱きついては、頬をスリスリ頭をグリグリ。暑さなどお構いなし、全力の愛情表現である。


「会いたかったわウルウル!」


「むうぅ、暑苦しいのじゃ……」


「ティアお姉様も、会えて嬉しいわ!」


「エリッサ王女……暑苦しい……」


 エリッサの愛は止まらない、嫌がられようと気にしない。追いかけてきたハミルカルは、大慌てでエリッサを引き剥がす。


「ロムルス王国の方々、申し訳ございません! エリッサ様、弁えてください!」


「無理よハミルカル、私の愛は止められないのよ!」


 エリッサはハミルカルに抱えられ、あっさりと自由を奪われてしまう。それでも諦めることなく、ウルリカ様とクリスティーナに抱きつこうと手足をバタバタ。

 あまりのおてんばっぷりを見かねて、アルフレッドは助け船を出す。


「エリッサ王女、そして騎士ハミルカル。お久しぶりです、今回はお招きいただきありがとうございます」


「お久しぶりですアルフレッド王子、お越しいただき感謝します」


 数秒前とは打って変わり、エリッサはしっかりと挨拶を返す。王族らしい立ち振る舞いだが、ブラブラと抱えられていては台無しである。


「ねえハミルカル、そろそろ降ろしてほしいわ」


「……お客様に抱きついてはダメですよ?」


「もう、分かってるわよ!」


 エリッサはようやく解放され自由に、と同時に再び自由を奪われる。こっそり忍び寄ってきたシャルロットに、背後からギュッと抱き締められたのだ。


「久しぶりですわエリッサ、約束通り遊びにきましたわよ!」


「嬉しいわシャルロット、ウルウルとティアお姉様も連れてきてくれたのね!」


「もちろんですわよ!」


 二人は手を取りあいキャッキャと大はしゃぎ。かつてシャルロットとエリッサは、南ディナール王国での再会を約束していた。その約束を果たすため、課外授業として南ディナール王国を訪れたということだ。


「ディナール王の復調を聞いた時は、心から安堵しました。父ゼノンに代わり、心よりお喜び申しあげる」


「ハミルカルも……元気そうで何より……。それと……この子達の……課外授業……、許可してくれて……ありがとう……」


「いえいえ、皆様には返せないほどの恩を受けておりますので」


 今回の課外授業は、体調を崩していたディナール王の快気祝い目的でもあるよう。南ディナール王国との外交はアルフレッドが担当していた、その背景からアルフレッドが引率を担当しているのである。

 つまりディナール王の快気祝い、シャルロットとエリッサの再開、そしてアンナマリアの学校行事参加、これら三つを目的とした課外授業ということである。


「ところで……この後の……予定は……?」


「まずはアルフレッド王子のみ陛下へご挨拶ください。皆様はごゆるりと、南ディナール王国の美しい町並みをご堪能ください」


「子供達への配慮に感謝する、皆のことはクリスティーナに頼んだよ」


「分かった……」


「ではアルフレッド様、陛下の元へご案内いたします」


 アルフレッドはハミルカルに連れられ、遠くに聳える城へと向かっていく。残った一同は自由時間だ、とここでエリッサのおもてなし魂が炸裂。


「案内は私に任せて、見せたい場所がいっぱいあるのよ!」


「うむ、楽しみなのじゃ!」


 こうしてエリッサの案内で町へと繰り出す、楽しい課外授業の幕開けだ。

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