第238話 決勝戦

 剣術大会は最後の戦い、ウルリカ様とナターシャによる決勝戦へと突入。二人は闘技場の真ん中で、静かに開始の合図を待っていた。


「入学試験を思い出すのじゃ」


「そうですね……」


 普段通りのウルリカ様とは対照的に、ナターシャは闘志に満ち溢れている。試合開始前だというのに、木刀を構えて臨戦態勢だ。


「果たしてどこまで戦えるか……ウルリカさん、今日は手加減無用でお願いします!」


「ふむ……」


 ウルリカ様は一瞬にして、ナターシャの気迫が本物であることに気づく。そしてどういうわけか、クルリと背を向け闘技場の端へ。


「リィアンよ、お主の木刀を貸しておくれなのじゃ」


「うん、まあいいけど……」


 ウルリカ様の魔剣ヴァニラクロスは双剣、つまりウルリカ様の得手は二刀流。ナターシャの望む手加減無用に応えるべく、リィアンの木刀を借りて二刀流となったのだ。

 お互い戦闘準備は整い、そして──。


「それでは……決勝戦、開始!」


「いきます、やあああっ!」


 まずはナターシャの先制攻撃、その速度はリィアンにも引けを取らない。しかしウルリカ様は軽やかな足取りで、なんともあっさりナターシャの速攻を躱してしまう。


「悪くない動きじゃ、しかしまだまだじゃ!」


「うぐっ!」


 続いてはウルリカ様の反撃だ、二本の木刀を交差させナターシャを打ちつける。ナターシャは辛うじて防御するも、衝撃で大きく吹き飛ばされてしまう。


「よくぞ防いだのじゃ、ならば!」


「くっ、くうぅっ!?」


 止むことのないウルリカ様の猛攻、大嵐を思わせる激しい連続攻撃だ。それでもナターシャは飛び退き、転がり、紙一重で攻撃を躱し続ける。


「こんなものかの?」


「いいえ、今度は私の番です!」


「むむぅ?」


 やはり実力差は明白、しかしやられっぱなしのナターシャではない。防戦一方かと思われたが、しっかり反撃の機会を伺っていた。

 スカーレットのように素早い動き、カイウスのように正確な剣捌き、そしてエリザベスのように力強い一撃。聖騎士顔負けの見事な剣捌きで、一転して攻勢に出る。だが──。


「うむ、素晴らしい剣じゃ!」


 相手は最強無敵の魔王様、その力は圧倒的。全身全霊をかけたナターシャの攻撃も、ウルリカ様には通用せず。


「ほれ、お終いなのじゃ!」


「ああっ!?」


 ついにナターシャは木刀を弾き飛ばされ、頭にポカッと一本を受けてしまう。


「そこまで! 勝者はウルリカ、よって剣術大会優勝はウルリカだ!」


「「「「「わああぁー!」」」」」


 規格外の強さを見せつけたウルリカ様、必死に食らいついたナターシャ。二人の激闘に観客は、この日一番の大興奮だ。


「はぁ……はぁ……、本気で戦ってくれて、ありがとうございました!」


「うむ、また勝負しようなのじゃ!」


「はい!」


 こうして剣術大会は、ウルリカ様の優勝で幕を閉じた。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 大興奮の決勝戦から数分後、闘技場には剣術大会の参加者が集まっていた。


「剣術合戦を制したナターシャと、剣術大会で優勝したウルリカに、最強剣士の称号を与える!」


 エリザベスからウルリカ様とナターシャに、金色と銀色の短剣が手渡される。といっても刃のついていない安全な短剣だ。これこそ剣術合戦と剣術大会の勝者へ送られるご褒美、ロームルス学園最強の剣士である証だ。


「やったのじゃ、嬉しいのじゃ!」


「そうですねウルリカさん、それでは……」


「うむ、せーのなのじゃ!」


 ウルリカ様とナターシャは、揃って天高く短剣を掲げ大喜び、誰もが二人に祝福の拍手を送っている、とそこへ──。


「ああっ、終わっちゃったわ!」


「残念……遅かった……」


 汗だくになりながら駆けつけたのは、ヴィクトリア女王とクリスティーナである。


「お父様と……お兄様に……、執務を押しつけてきた……甲斐なし……」


「もうっ、ゼノンは執務を溜め込みすぎよ!」


 どうやら二人は、ゼノン王とアルフレッドに執務を押しつけてきた模様。しかし残念ながら一足遅く、最後の競技も終わってしまった。


「お二方、あまり俺から離れませんように」


「大丈夫よガーランド、学園に危険なんてないわ」


「そう……護衛は不要……心配は無用……」


「いえしかし、万が一ということもありますので」


 二人の護衛についてきたらしい聖騎士のガーランド。護衛は不要と言われつつも、しっかりと辺りを警戒し、とある一点でビタリと視線を止める。


「なっ、なんだと……!?」


 ビタリと止まった視線の先、そこには無邪気に拍手をするリィアンの姿があった。

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