第235話 一日目
ついに幕を開けた運動会、熱狂に包まれるロームルス学園。各所で行われている競技は、どれも大いに盛りあがっている。注目の競技は徒競走だ、六人一組で足の速さを競う人気競技である。
「ふっふっふっ、負けませんよシャルルさん!」
「はっはっはっ、負けないぞナターシャ嬢!」
「ふんっ、私のことを忘れてもらっては困るな!」
徒競走で最も盛りあがる瞬間、それは各組の一着同士による最速決定戦だ。そして今はまさに最速決定戦の直前、参加者も観客も熱気は最高潮である。
それぞれ一着を勝ち取ったシャルル、ナターシャ、そしてハインリヒの三名は、大勝負を目前にバチバチと火花を散らしていた。
「妾も負けないのじゃ、いざ尋常に勝負なのじゃ!」
「リィだって絶対に負けないんだから!」
同じく一位を勝ち取ったウルリカ様とリィアン、こちらも一着を譲るつもりはない様子。五名は横一列で身を屈め、そして──。
「いちについて、よーい……ドンッ!」
「うむ?」
開始の合図と同時に、ウルリカ様はあるものを発見。それは応援席でお菓子を振舞う、オリヴィアとベッポの姿だった。学園祭で人気を博した、聖女のお菓子屋さん出張店である。
「うおっ、ウルリカ嬢!?」
「むむぅっ!?」
大好きなお菓子に目を奪われ、ウルリカ様はフラリと応援席の方へ。結果として真横を走ろうとしていたシャルルに激突し、二人揃ってゴロゴロ転倒してしまう。ウルリカ様は自業自得だが、巻き込まれてしまったシャルルは可哀そうだ。
さて一方、残った三名による一着争いは予想外の展開に突入していた。
「くっ、なんという速さだ!」
「ダメです、追いつけません!」
「ふふんっ、楽勝だね!」
リィアンは圧倒的な速さで、ナターシャとハインリヒを置き去りにしていた。魔人であるリィアンの身体能力は、人間のそれを遥かに凌駕しているのだ。
そのままリィアンは先頭をひた走り、見事一着に輝いた。飛び入り参加者の大勝利という波乱の展開に、観客は大興奮なのであった。
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続いては団体競技の玉入れだ。各所に設置された籠を目掛け、参加者は次々と玉を投げ入れていく。分かりやすい競技であるが故に、参加者の数は非常に多い。
なお使用される籠と玉は、玉の数を集計出来る魔法の籠と玉である。これによって参加者別に入れた玉を集計し、最終的な順位を決めるのだ。
「むうぅ、難しすぎる!」
「リィアンは下手っぴいじゃな」
「くっ、くやしい!」
「ほれほれ、こうやるのじゃ!」
徒競走とは打って変わり、リィアンはなかなかに苦戦をしていた。一方のウルリカ様は、器用にポンポンと得点を稼いで楽しそう。
このまま進めば一位はウルリカ様のものか、と思いきや──。
「ふふんっ、圧倒的な私の実力に驚愕せよ!」
ウルリカ様とは比較にならない速度で、玉を投げ入れるハインリヒ。複数の玉を同時に投げ、百発百中で籠に入れるという脅威の活躍をみせていた。
「くっ、なんという投擲能力だ!」
「マズいです、負けてしまいそうです!」
ナターシャとシャルルは必死に対抗するも、ハインリヒの実力は圧倒的だった。規格外の連続投擲で、あっという間に籠はいっぱいだ。
「これぞ特訓の成果、努力は決して裏切らないのだ!」
この日のために特訓を積んできたのだろう、玉入れはハインリヒの圧勝で幕を閉じる。下級クラスと生徒会長、一進一退の攻防はまだまだ続く。
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注目すべきは競技だけにあらず、応援合戦も見逃せない。
フリフリの衣装で可愛らしく着飾り、ポンポンを両手に運動会を盛りあげる。女子生徒達による華やかな応援は、見る者を魅了してやまない。
そんな中とある一角で、男子生徒の大混雑が発生していた。
「ふおおおっ、勝利の女神様から応援してもらえたぞ!」
「お願いだ天使様、俺にも太陽のように熱い応援を送ってくれ!」
「お菓子の聖女様、その応援は尊すぎる……うっ」
「はうぅ、恥ずかしいですわ……」
「ひえぇ、私も恥ずかしいです……」
大混雑の中心は、オリヴィアとシャルロットの二人である。
太陽の天使様であり、勝利の女神様でもあるシャルロット。学園祭のお菓子屋さんで、人気投票一位に輝いたオリヴィア。そんな人気者の二人が、フリフリの衣装を着て応援してくれるのだ。何より二人は紛れもない美少女なのである、男子ならば誰だって応援してほしい。
そのころ別の一角では、女子生徒の大混雑が発生していた。
「一騎当千! 獅子奮迅! 戦うのだ騎士達よ!」
「きゃあぁ、ステキすぎるわ!」
「はわわぁ、カッコよすぎてクラクラするぅ……」
大混雑の中心はエリザベスである。
真っ白なハチマキを巻き、純白の鎧に身を包み、巨大な旗をブンブンと振り回し応援に励んでいる。凛々しく逞しい騎士姿のエリザベスに、女子生徒達は一様に大興奮だ。
華々しく熱い応援で、運動会はより一層盛りあがるのであった。
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気づけば太陽の沈む時刻、あっという間に一日目は終了だ。
競技を終え集まった生徒達の前に、ノイマン学長とラヴレス副学長が姿を現す。
「今日は一日お疲れ様でした、大変に盛りあがっていましたね」
「ゆっくり休んで明日に備えるのですぞ……とその前に、一日目の中間順位を発表しておきましょうかな」
ノイマン学長は一枚の紙をラヴレス副学長に手渡す。中間順位を記しているらしき紙を、ラヴレス副学長はよく通る声で読みあげる。
「一日目の中間順位、第一位は……生徒会長のハインリヒさんです!」
「「「「「おおぉ!」」」」」
「第二位は僅差で下級クラスのナターシャさんです! そして第三位は、ほお……飛び入り参加のリィアンさんです!」
一日目の第一位は生徒会長のハインリヒ、続いて二位と三位にナターシャとリィアン。ハインリヒは宣言通り、小細工なしの真っ向勝負で下級クラスを制したのだ。
ちなみにウルリカ様は、徒競走の時と同じ失敗を繰り返した結果、下から数えた方が早い成績に留まっている模様。
「二日目も熱い戦いに期待していますよ」
「ほっほっほっ、では一日目を終わりますかな!」
ノイマン学長の宣言で、一日目は幕を閉じる。いよいよ明日は決着だ、果たして一位の表彰台に立つのは──。
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