第217話 大宴会

 ウルリカ様主催の大宴会、その情報は光の速度で魔界全土へと広がった。

 大宴会に参加するべく続々と集まる魔物達。エンシェントドラゴンにフェニックス、フェンリルにクラーケン、どれも伝説に登場するような魔物ばかりである。


 大宴会の会場は魔王城の大広間、といっても一般的な人間界の大広間とは規模が違う。一切の壁を取っ払った圧倒的解放空間、巨体の魔物も出入り可能な魔界規模の大広間だ。


「「「「「ウルリカ様ー! ウルリカ様ー!」」」」」


「久しぶりの魔界じゃ、楽しいのじゃー!」


 次々と運ばれてくる料理、飲めや歌えのどんちゃん騒ぎ。

 もちろん主催のウルリカ様は大盛りあがりの大はしゃぎだ、魔物の波を乗りこなして右へ左へピョンピョン跳ねる。


「皆の者、いっぱい楽しもうなのじゃー!」


「「「「「うおぉーっ!!」」」」」


 ウルリカ様を中心に、大宴会は天井知らずの盛りあがりをみせる。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 一方そのころオリヴィアはというと。


「ほらそこの娘、早く次の料理を作りな!」


「はいっ」


 大広間の一角に用意された特設の厨房で、せっせと料理の支度を手伝っていた。料理人風の悪魔達に交じり猛烈な勢いで料理の腕を振るっている。


「完成です、ご注文のお料理です」


「よし、次の料理に取りかかりな!」


「はいっ」


 厨房を取り仕切っているのは恰幅のいい姉御肌の女悪魔だ。オリヴィアは女悪魔の指示に従い、次から次へと料理を作りあげていく。


「お待たせしました、一通りご注文のお料理を用意しました」


「なかなかの手際だね、盛りつけもいい! やるじゃないか!」


「ありがとうございます」


 ちなみに先ほどまで働いていた料理人風の悪魔達はパタパタと倒れてしまっている、厨房の慌ただしさは悪魔でも倒れるほど凄まじいのだ。


「魔界鍋を百匹分! 腹ペコなんだ、大急ぎで頼む!」


「極上魔獣肉を食わせてくれ! 量は……部位は……ええい面倒だ、とにかくあるだけ持ってこーい!」


「ウルリカ様からお菓子の追加注文だ、最優先で用意してくれ!」


「ほら次の注文だよ、いけるかい?」


「もちろんですっ」


「よし、一気に仕上げるよ!」


「はいっ」


 せっかくの大宴会だというのに休む間もなく働いてばかり、しかし思いの他楽しそうなオリヴィアなのであった。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 そのころゼノン王はというと、大広間のド真ん中で魔物達と舞い踊っていた。


「ハッハッハッ、魔界は最高だな!」


 吸血鬼や悪魔と肩を組み、酒をグビグビ一気飲み。すっかり魔界の宴会に順応している、流石は酔っ払いというべきであろうか。


「お父様、飲みすぎですわよ!」


「何を言うシャルロット、宴会に飲みすぎという概念は存在しない!」


「グハハハッ、人間の王は面白いな!」


 娘の忠告もどこ吹く風、屈強な竜人と腕を絡ませ高価なお酒を次から次へ。ちなみにこの竜人、討伐難易度Aに相当する強力な魔物である。


「無理してはダメですの、徹夜明けでフラフラですのよ」


「徹夜明けだと? 宴会に徹夜などという概念は存在しない!」


「ガルルルッ、気に入ったぞ人間の王よ!」


 筋骨隆々な獅子男と肩を組み、軽快な踊りで場を盛りあげる。ちなみにこの獅子男も討伐難易度Aに相当する強力な魔物である。


「もうっ、お父様!」


「心配するな娘よ、俺は心配無用人間だからな!」


「はぁ!?」


「はははっ、しんぱいむようら!」


 もはや呂律も回っていない、それにしてもお酒の力は恐ろしいものだ。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 さてそのころナターシャは、一人で大広間を駆け回っていた。


「モグモグ……美味です! パクパク……美味です!」


 魔界の宴会は珍しい料理でいっぱい、珍味大好きなナターシャは大興奮である。


「どれもこれも美味ですーっ!」

 

 ナターシャは夢中で珍味を貪るあまり、背後から忍び寄る抱きつき魔に気づかない。


「次はあちらのお料理を──わひゃっ!?」


「ふふぅ、ナターシャちゃん捕まえたわぁ」


「ヴァーミリアさん!?」


 抱きつき魔ことヴァーミリア登場、すぐ隣にはエミリオも一緒だ。


「ごきげんようナターシャさん」


「エミリオさん、お久しぶりです!」

 

 エミリオ、ヴァーミリア、ナターシャは人間界で顔をあわせている。ガレウス邪教団によるロアーナ地方襲撃、そして魔人リィアンによる王都ロームルス襲撃事件以来の再会だ。


「お二人は一緒に宴会を楽しんでいたのですか? もしかして仲良しなのですか?」


「ええ、ボク達はお付き合いをしていますから」


「なるほどお付き合い……え、お付き合いですか!?」


「そうよぉ、私達は恋人同士なのよぉ」


 なんとエミリオとヴァーミリアは恋仲にあるのだという、まったく予想外の事実にナターシャの目は点だ。


「ところでナターシャちゃん、ウルリカ様を見なかったかしらぁ?」


「ボク達もウルリカ様と遊びたいのです、久しぶりの再会ですからね」


「えっと、ウルリカさんでしたら──」


「呼ばれた気がしたのじゃー!」


 突如として飛来するウルリカ様、なぜか気絶したジュウベエを頭に乗せている。よく見るとジュウベエは砂糖でベタベタだ、何故このような状態に陥っているのやら。


「妾を呼んだのじゃ?」


「こちらのお二人もウルリカさんと遊びたいそうですよ」


「うむ、ならば一緒に遊ぶのじゃ!」


 言うやいなやウルリカ様は、エミリオとヴァーミリアをヒョイと頭に乗せてしまう。小柄なウルリカ様の頭に三体の大公爵、なんとも奇妙な光景である。


「待ってウルリカ様──」


「せっかくじゃ、ミーアとドラルグも誘おうなのじゃー!」


 ヴァーミリアの制止も聞かず、ウルリカ様はピョーンと飛び去ってしまう。まさに嵐のような勢い、元気いっぱいにもほどがある。


「エミリオさんとヴァーミリアさん、悲鳴をあげていたような……きっと大丈夫ですよね、皆さんとってもお強いですから! さて、私は珍味狩りの続きです!」


 大宴会は始まったばかり、楽しい夜はこれからだ。

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