第216話 大集合

 ウルリカ様が帰ってきた、その知らせは瞬く間に魔界全土へと広がった。

 大好きなウルリカ様を一目見るべく大集合する魔物達。ドラゴンにガルーダ、ケルベロスにシーサーペント、いずれも危険極まる魔物である。

 その中でも一際存在感を放つ六体の強大な魔物、魔界を統べる六体の大公爵である。


「ウルリカ様です、愛しのウルリカ様です!」


 喜びのあまりクルクルと舞い踊る、銀星エミリオ・アステルクロス。

 暴発した銀星術式により四散する流星の魔法。周囲の魔物達は大迷惑だが、エミリオはそんなこと気にしない。


「ウルリカ様だ! ずっとずっと会いたかったんだからー!」


 爆炎を巻きあげバンバンと飛び跳ねる、炎帝ミーア・ラグナクロス。

 グラグラと揺れる魔王城、メラメラと燃える魔物達。大惨事を巻き起こすも、ミーアは一向にお構いなし。


「グルオオォーッ! ウルリカ様ーッ!」


 歓喜の雷鳴を轟かせる、黒竜ドラルグ・ドラニアクロス。

 天を衝く雷の余波を受け、空を飛ぶ魔物達は大慌てだ。しかしドラルグは周囲など気にせずゴロゴロと吠え続けている。


「おおぉ……っ! やはりウルリカ様の愛らしさは天下無双……っ」


 湧きあがる歓喜に打ち震える、悪鬼ジュウベエ・ヤツセ。

 ユラユラと溢れ出る魔力は、鋭く研ぎ澄まされ周囲へと霧散する。ジュウベエはまったく気づいていないが、柱や壁をバラバラと切り刻んでしまっている。


「私との約束を覚えててくれたのねぇ、嬉しいわぁ!」


 百獣ヴァーミリア・アニマクロスは、両腕を縦横無尽に伸ばして大はしゃぎ。

 無数に分裂した両腕は、集まった魔物達をバシバシとしばき回している。何やら喜んでいる魔物もいるのは気のせいだろうか。

 ともかく大盛りあがりの魔王城、盛りあがりすぎて魔王城周辺は天変地異の詰めあわせ状態だ。もはや誰にも収集をつけられない、そう思われたが──。


「落ちつきなさい!」


 六大公筆頭にして大宰相ゼーファードの痺れる一喝。その効果は極めてテキメン、大騒ぎしていた魔物達は一瞬にしてシンと静まり返る。


「このままでは魔王城を崩壊させてしまいます、速やかに魔力を収めなさい」


「グ……グルル、確カニ魔王城ヲ崩壊サセカネン」


「ウルリカ様との再会で熱くなりすぎちゃった」


「どうやら冷静さを取り戻したようですね、ではとっとと退散しなさい」


「「「「「退散?」」」」」


「ここからはウルリカ様と私だけの時間です、邪魔をすることは許しません」


「「「「「ハア?」」」」」


「これは宰相命令です、即時退散です!」


「「「「「ハアァーッ!?」」」」」


 どうやらゼーファードはウルリカ様と二人きりになりたかっただけの様子。なんとも身勝手な宰相命令の私的利用に、大公のみならず集まった魔物達は猛反発だ。


「とにかく即時撤退しなさい、さもなくば悪災魔法で蹴散らしますよ?」


「蹴散らすですってぇ? その言葉、ソックリそのままお返しするわぁ」


「ボクの銀星術式で蹴散らしてあげます、覚悟してください……」


 先ほどから魔物達は争ってばかり、その状況はウルリカ様をプンと怒らせてしまう。


「こらーっ! ケンカをする悪い子は、妾のお土産お預けなのじゃ!」


「「「「「「!?」」」」」」


 ウルリカ様のお預け発言を受け、荒ぶっていた魔物達は一瞬して大人しくなる。先ほどまでとは打って変わり姿勢を正して静かに待機、まるで餌を待つ犬のようだ。


「大人しくなったのじゃ」


「……おいウルリカ、大丈夫か?」


「うむ、大丈夫なのじゃ!」


 ソロソロと玉座の後ろから顔を覗かせる、ゼノン王、オリヴィア、シャルロット、ナターシャ。大混乱の大騒動に巻き込まれないよう、とりあえず玉座の後ろに避難していたのだろう。


「皆の者、聞くのじゃ!」


 ともかく殺伐とした空気も和らいだところで、ウルリカ様はポフッと玉座に腰かける。


「妾は学校のお休みを利用して帰省してきたのじゃ、お友達を連れての帰省なのじゃ!」


「帰省ですか、ずっと魔界におられるわけではないのですか!?」


「うむ、お休みが終わるころには人間界へ戻るのじゃ」


 いずれ人間界へ戻ると聞き、魔物達は一斉にションボリ。


「しかし、魔界におる間は皆と楽しく過ごしたいのじゃ! いっぱい遊ぼうなのじゃ!」


「「「「「おぉっ!」」」」」


「というわけでなのじゃ、お友達の紹介も兼ねて今夜は大宴会なのじゃ! 皆の者は準備に取りかかるのじゃー!」


「「「「「うおおぉーっ!!」」」」」


 大宴会の号令に魔物達は大盛りあがり、こうしてウルリカ様の帰省は華々しく幕を開ける。

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