第187話 邪教の誓い

 ぼんやりと輝く無数の魔法陣、ズラリと並ぶ怪しげな祭壇。

 かつてガレウス邪教団の集会に使われていた地下施設を、小さな人影が這い回っていた。


「う……くぅ……」

 

 ガレウス邪教団の魔人リィアンである。ヴァーミリアのお仕置きを受け、ほうほうの体で逃げてきたのである。


「こ……ここまで逃げれば安心……」


 ズルズルと床を這い、ようやく祭壇へと辿りつくリィアン。ぐったりと四肢を投げ出して放心状態だ。

 触手の粘液で全身ベトベト、衣服はすっかり溶けて丸裸だ。しかし弱りきったリィアンに、身なりを気にする余裕はない。

 そんなリィアンを二体の魔人が出迎える。


「あらリィアン、大胆な恰好をしているわねぇ」


「大胆ではなく無様と言うべきだろう」


「う……うるさいわね……」


 出迎えに現れたザナロワとアブドゥーラは、怒りと哀れみの混じった視線をリィアンへと送る。


「リィアンよ、なぜ勝手に王都ロームルスを襲撃した?」


「うるさいって言ってるでしょ……」


「リィアン! なぜ俺達の言いつけを破り、王都ロームルスを襲撃したのだ!」


 アブドゥーラの剣幕に、リィアンはビクリと体を震わせる。


「だって……だってヨグソードを奪えると思ったんだもん」


「ヨグソードには手を出すなと言っただろうが!」


「むうぅ……うるさい!」


 リィアンはヨロヨロと立ちあがり、アブドゥーラを脛を蹴っ飛ばす。しかし弱っているうえに裸足なせいで、ペチッと可愛らしい音が響いただけである。


「まだ反省していなのか!」


「ぎゃあっ、痛い痛い!」


 アブドゥーラに頭をグリグリされ、子供のように泣き喚くリィアン。じたばたと抵抗するも、アブドゥーラの頭グリグリからは逃れられない。


「私達はリィアンのことを心配しているのよ? 下手をすれば死んでいたかもしれないのよ?」


「うぅ……ザナロワ……」


「リィアンは大切な仲間なの、心配かけさせないで」


 すっかりボロボロのリィアンを、ザナロワはギュッと抱きしめる。

 そしてヒョイッとリィアンを持ちあげ、自信の膝にうつぶせで寝かせ、可愛いお尻を優しくナデナデ。


「ん? なにしてるのザナロワ?」


「心配をかけさせた罰を与えるのよ」


 そう言うとザナロワは大きく振りかぶり、そして──。


「お尻ペンペンよっ」


「ひぎゃぁ!?」


 丸出しのお尻をペンペンされ大声で泣き喚くリィアン。必死に許しを請うが、ザナロワは許してくれない。


「それっ」


「許してザナロワ!」


「まだまだっ」


「痛い痛い!」


 ザナロワのお尻ペンペンはしばらく続き、ようやく解放されたころには、真っ白だったリィアンのお尻は真っ赤に腫れあがっていた。


「うぅ……ごめんなさいぃ……」


「反省しているなら今ここで誓え! 二度と勝手な真似はするな!」


「はい……勝手な真似はしません……」


 リィアンの反省した態度を見届けて、ザナロワとアブドゥーラは暗闇の中へと消えていく。

 残されたリィアンはお尻をおさえたままピクリとも動かない。


「痛い……痛いよぉ……」


 リィアンはすっかり反省した様子だ、と思いきや──。


「くうぅ……でも絶対に諦めない、ヨグソードは私が奪ってみせるんだから!」


 どうにも懲りないリィアンは、暗闇の中で一人静かに誓うのだった。

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