第180話 三位一体

「いくぞパルチヴァール! トーレス!」


「「はっ!」」


 ガーランドを中心に陣形を組むパルチヴァールとトーレス。

 対するサンダーバードは残った三枚の翼を広げ、全方位へと稲妻を放つ。


「あの稲妻には気をつけろ!」


「……承知!」


 聖騎士側から最初に仕掛けたのはトーレスだ、青藍色の大盾を構えサンダーバードへと突進する。次々と襲いくる稲妻も、分厚い大盾で簡単に弾き返してしまう。


「うおおぉっ! 奥義、衝波怒涛!」


「クアアァッ!?」


 トーレスの攻撃はいたって単純、構えた大盾による体当たりである。しかし単純であるがゆえにその威力は凄まじく、サンダーバードの巨体を浮きあがらせるほどである。


「流石ですトーレス!」


 続いて仕掛けたのはパルチヴァールだ。素早くサンダーバードの背後に回り込み、流れるように剣を抜き放つ。

 抜き放たれた剣は等間隔に分裂し、鞭のような独特のしなりを見せる。いわゆる蛇腹剣と呼ばれる特殊な剣だ。


「いきますよ……奥義、荊棘裂き!」


「クッ……クッ……クオォォーッ!!」


 全身を切り刻まれるサンダーバード、だが力尽きる気配はない。翼を広げ激しい暴風を巻き起こし、トーレスとパルチヴァールを吹き飛ばしてしまう。


「……サンダーバード、手強い!」


「やはり一筋縄ではいきませんね」


「面白いじゃないか、ここは俺に任せておけ」


 ガーランドは背負っていた大剣を静かに抜き放つ。身に纏う鎧の色と同じ、漆黒に輝く大剣だ。


「この程度のそよ風で、俺達を止められると思うな!」


 踏み砕かれる石畳、振り下ろされる大剣。ガーランドの一撃は大気を切り裂く巨大な斬撃を生み出す。サンダーバードの起こした暴風は軽々と切り飛ばされ、その衝撃によってサンダーバードは大きく体勢を崩す。

 その隙をガーランドは見逃さない。


「パルチヴァール、トーレス! 三位一体だ!」


「「はっ」」


 大盾を構えるトーレス、蛇腹剣をしならせるパルチヴァール、そして大剣を振りあげるガーランド。三人の聖騎士は一直線に並ぶと、陣形を保ったままサンダーバードへと突撃していく。


「クオッ! クオオォッ!」


 サンダーバードはすぐさま稲妻を放ち反撃にでる、だがトーレスの大盾を破ることは出来ない。


「せああぁっ!」


 その間にパルチヴァールの蛇腹剣がサンダーバードへと襲い掛かる。正確に操られた蛇腹剣は、見事サンダーバードの顔面を切り刻む。

 たまらず後退するサンダーバード、そこへ追い打ちをかける三人目の聖騎士。


「これで終わりだ! おおおぉーっ!」


「クアアアァーッ!?」


 ガーランドの放った渾身の一撃は、サンダーバードの巨体をバッサリと一刀両断する。

 聖騎士三人による三位一体の連携攻撃には、サンダーバードといえども耐えられない。音を立て倒れると、やがて静かに息絶える。


「ふぅ、どうやら私達の勝利ですね」


「……当然の結果!」


「飛行能力を失っていたおかげで楽に倒せました」


「……エリザベス様の一撃」


「はっはっはっ、エリザベス様のおかげで俺達は楽に勝てたという訳か!」


 大声で笑うガーランド、その態度から以前のような嫌味は感じられない。


「とにかくサンダーバードは討ち取った、残りのイビルバードも片づけるぞ!」


「「はっ!」」


 残る魔物はイビルバードのみ、と思われたその時──。


「ふーん、人間のくせにやるじゃん」


「……なっ!?」


 突如耳元で囁かれた少女の声。

 慌てて振り返ったトーレスは、直後に肩口から血を噴き出しバッタリと倒れてしまう。


「「トーレス!」」


 倒れたトーレスの真横、景色から浮きあがるように一人の少女が姿を現す。長い髪を左右で結んだ幼い顔立ちの少女である。


「真っ二つにしたつもりだったのに、鎧って邪魔ね」


 身の丈程もある大鎌を後ろ手でクルクル振り回す少女。異様な存在の出現に、ガーランドとパルチヴァールは警戒を強める。


「お前は一体……?」


「ん? リィの名前はリィアン、風の魔人リィアンだよ」

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