第179話 エリザベス王女
「王女様……腕が……」
震える少女の指差す先、エリザベスの右腕はあらぬ方向へとへし折れていた。しかしエリザベスは爽やかに笑顔を浮かべると、左手で少女の頭を優しく撫でる。
「気にしなくていい、それより無事でよかったな」
「は、はひぃ……」
幸い少女にケガはなさそうだ、にもかかわらず顔を真っ赤にしてパタリと倒れてしまう。
「おいどうした!? しっかりしろ!」
「エリザベス様ー!」
「スカーレットか、いいところにきてくれた!」
駆けつけたスカーレットは少女の顔を見て、呆れたように「はぁ」とため息をつく。
「ケガはないはずだ、なのに気を失ってしまった」
「それはエリザベス様のせいですよ……」
「私のせい!?」
「はい、エリザベス様がカッコよすぎるせいです……」
どうやら少女はエリザベスのカッコよさに耐えられず失神してしまったようだ。しかし自分のカッコよさに自覚のないエリザベスは、スカーレットの言うことが理解出来ず大混乱だ。
「はぁ?」
「身を挺して少女を助けたうえに、ケガを押して優しく気遣う。カッコいいにもほどがありますよ……」
「スカーレットは一体なにを言っているのだ?」
「……って、そんなことより早く安全な場所へ!」
「ああそうだった、ならばスカーレットはこの子を安全な場所へ連れていってくれ」
「エリザベス様も一緒に!」
「いいや、まだ私にはやることがある」
「なにを言っているのですか、腕が折れているのですよ!」
慌てるスカーレットを余所に、エリザベスは自信の大剣を片腕で強引に振りあげる。
「まさかエリザベス様……!?」
「いけるな……よし、こいサンダーバード!」
「クアァァーッ!」
エリザベスの気迫に反応し、サンダーバードは稲妻を纏い飛びあがる。猛烈な勢いで襲いくるサンダーバードに対してエリザベスは──。
「とおりゃあーっ!!」
なんと振りあげた大剣をサンダーバードに向かって放り投げたのである。
ブンブンと回転する大剣は、サンダーバードの翼を根元からバッサリと斬り落とす。たまらず地面へと落下するサンダーバード、もはや自由に飛び回ることは出来ないだろう。
メチャクチャすぎるエリザベスの攻撃に、敵であるスプリットバードの群れも味方である聖騎士達も開いた口が塞がらない。
「よしっ! ガーランド、あとはお前達に任せる!」
「なっ、なんだと!?」
「もはや私は戦力外だ、ここからは逃げ遅れた人々を助けて回る! サンダーバードはお前達で討伐しろ、これ以上好き勝手に暴れさせるな!!」
エリザベスは冷静に状況を判断し、自身を戦力外と認めたうえでガーランドに後を託したのである。その潔い態度、ゼノン王にも負けない気迫、そして常識外れの行動に、ガーランドはつい笑ってしまう。
「は……はははっ! よし分かった、サンダーバードは任せろ!」
「頼んだぞガーランド! スカーレットとカイウスはついてこい!」
「エリザベス様! 先に手当てをしましょうよー!」
「言って聞くようなお方ではありませんよ、それはスカーレットも分かっているでしょう」
「もうっ、エリザベス様ー!!」
走り去るエリザベス達の背中を見ながら、大きな笑い声をあげるガーランド。
「はっはっはっ! 肩書ばかりの小娘かと思っていたが、いつの間にやら立派な騎士になってやがる!」
「これはなんとしてでもサンダーバードを討伐しなければなりませんね」
「……元よりそのつもり!」
「よし、いくぞパルチヴァール! トーレス!」
「「はっ!」」
そして戦場を託された聖騎士達は、サンダーバードへと立ち向うのだった。
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