第172話 休日

 晴れ渡る青い空、照りつける白い日差し。


 学園祭も一段落し、ロームルス学園は数日間のお休みだ。もちろん下級クラスの授業もお休みということで、ウルリカ様、オリヴィア、シャルロット、ナターシャの四人は城下町まで遊びにきていた。


「わーいなのじゃ! お出かけなのじゃ!」


 仲良し四人組でのお出かけに大はしゃぎするウルリカ様、人々で賑わう大通りをパタパタ元気に走り回っている。


「今日はいつにも増して楽しそうですわね」


「うむ! お友達と一緒のお出かけは楽しいのじゃ!」


「でもウルリカさん、誰かにぶつかってしまそうです」


「妾は平気なのじゃ、魔王じゃからな……むむ!」


 ウルリカ様はピタリと足を止め、キラリと視線を光らせる。なにやら通りに並んだ露店をじっと見つめているようだ。


「甘い匂いがするのじゃ! あれはなんのお店じゃ?」


「あれはカップケーキのお店ですわね」


「カップケーキじゃとー!?」


 甘い匂いを漂わせるカップケーキを前に、ウルリカ様がじっとしていられるはずはない。


「おいしそうなのじゃ! 食べにいくのじゃ──むぅっ!?」


「きゃぁ!?」


 駆け出したウルリカ様は、勢いあまって通行人の女性とぶつかってしまう。

 バッタリと転んでしまう女性、しかし幸いなことにケガはないようだ。女性はすぐに立ちあがると、尻もちをついたウルリカ様を優しく抱き起こす。


「ごめんなさいね、大丈夫だった?」


「スマンのじゃ、ぶつかってしまったのじゃ」


「私も不注意だったわ、お互いに気をつけましょうね」


「うむ、気をつけるのじゃ!」


 人の好い女性はウルリカ様の頭をなでると、行き交う人々の中へと消えてしまう。何事もなくてホッと一安心である、しかしオリヴィアはカンカンだ。


「もう少し周囲に気を配ってくださいっ」


「しかしじゃな──」


「いい訳は禁止です、反省しないなら二度とクッキーを作ってあげませんよ」


「それは嫌なのじゃ! ごめんなさいなのじゃ!」


 最強の魔王様ですらコロッと反省させてしまう、オリヴィアの手作りクッキーには誰も敵わないのかもしれない。


「それとウルリカ様、腰の剣をどうにかしてください。先ほどから誰かにぶつけてしまいそうです」


「むむぅ……」


 ウルリカ様の腰には、学園祭で使った魔剣ヴァニラクロスがぶら下げられている。実は学園祭で使って以降、ずっと腰に差しっぱなしにしていたのだ。

 しかし人通りの多い場所では邪魔でしかないだろう、誰かにぶつけてしまっては一大事である。


「分かったのじゃ、魔界に返すのじゃ」


「そうですわね……って、ちょっと待ったですわ!」


「ゆくのじゃ……時空間魔法なのじゃ!」


 シャルロットが止める間もなく、ウルリカ様は強大な魔力を解き放つ。放たれた魔力は大気を巻き上げ四方八方に吹きつける。


「ちょっとウルリカ、こんな所で魔法を使わないでくださいですの!」


「うむ? しかしもう魔法を発動してしまったのじゃ」


「せめてもう少し魔力を抑えてくださいですのー!」


 ウルリカ様の魔法によって通りは大混乱だ。その時、突風にあおられて露店のカップケーキが転がり落ちてしまう。甘々なカップケーキの危機をウルリカ様が見逃すはずはない。


「大変なのじゃ、カップケーキが落ちてしまうのじゃ!」


 あわてて手を伸ばすウルリカ様、その拍子に魔法陣は形を崩し空間はグニャグニャと歪み──。



 ──ズズンッ!!──。



 ──迸る衝撃、霧散する魔力、崩壊した時空間魔法は光の靄となって周囲に立ち込める。


「あらぁ、ここはぁ……?」


 霞む視界の中から聞えてくる、色っぽい女性の声。

 そして、光の靄を払い除け、声の主が姿を現す。

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