第171話 深夜の執務室 その五
深夜。
吸血鬼も疲れておやすみしている時刻。
ゼノン国王の執務室に、薄っすらと明かりが灯っていた。
ソファに腰かけるノイマン学長とアルフレッド、向かい側のソファではゼノン王が二人の話に耳を傾けている。
「──しかしトドメを刺そうとしたところで、ザナロワと名乗る別の魔人に妨害されたのです。結局トドメを刺すことは出来ず、魔人共の逃亡を許してしまいました」
「奴等の力は悪魔や吸血鬼を上回っておりましたな、ガレウス邪教団の主軸を担う存在であることは確実でしょうな」
戦いの一部始終、そして魔人の持つ力、いずれも恐るべき内容である。報告を受けたゼノン王の表情は険しい。
「魔人……なんと恐ろしい存在なのだ……」
「奴等は魔物を召喚し、ロームルス学園を襲撃しようとしておりましたな。よって奴等の狙いはロームルス学園にあるものと思われますな」
「なるほど……ならば早急にロームルス学園の警備を強化する、王都全域の警備体制も見直しをかけるべきだな。くわえて逃走した魔人の捜索も進めるとしよう、各国と連携し国内外の問わず捜索するのだ」
賢王と呼ばれるだけあってゼノン王の判断は早い。魔人の脅威に驚きつつも、速やかに対策を決めていく。
「各国との連携は私に任せてください。南方の国々とは良好な関係を築けています、早々に協力を取りつけられるでしょう」
「ほっほっほっ、ならばワシは魔人への対抗策を検討しましょうかな」
ノイマン学長とアルフレッドも積極的に協力を申し出る。かつては仲違いしていた王家と学園も、有事の際は力をあわせることに躊躇しない。
「各地に散っている聖騎士を呼び寄せ、王都の防衛を強化しましょう。今後は父上の仕事も増えるはず、大臣達も王都に集まってもらうべきです」
「確かに俺とルードルフだけでは手が回らんだろうからな……」
ゼノン王は目元をおさえ、深々とソファに身をゆだねる。ただでさえ徹夜続きで限界寸前なのである、今にも気絶してしまいそうな様子だ。
「ふぅ、またやることが増えてしまうな……」
「父上は無理をしすぎです、たまには体を休めてください」
「いいやアルフレッド、今は休むわけにはいかん。魔人の脅威は迫っている、そして俺達には守らなければならないものがある」
そう言うとゼノン王は力強く立ちあがる。ノイマン学長とアルフレッドも立ちあがり、三人はグッと拳を掲げる。
「ほっほっほっ、もちろんワシも力を尽くしましょうぞ!」
「必ずや! 力をあわせて守り抜きましょう!」
「ああ、俺達の手で国民を守り──」
「ウルリカ様の笑顔を!」
「愛しき少女の笑顔を!」
「──は?」
思っていたものと違う展開に、ゼノン王は立ちあがったまま固まってしまう。一方ノイマン学長とアルフレッドは興奮した様子で腕を振りあげている、その腕にはキラリと輝く金色の腕輪が覗いていた。
「おい待て、まずは国民を──」
「ウルリカ様! 必ずワシが守って見せますぞ!」
「愛しき少女よ! 私の愛で守り抜いて見せる!」
「いや……そもそもウルリカは魔王だぞ、守る必要などないだろうに……」
執務室に響く、ゼノン王の虚しい呟き。
こうして、ロームルス城の夜は更けていく。
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