第166話 火の魔人

「さあ、ここからが本番だ!」


 響き渡るアブドゥーラの絶叫、放たれる魔力は炎となって森を焼き尽くす。


「なんだ……あの姿は……!?」


 木々を薙ぎ倒しながら姿を現すアブドゥーラ、その巨体は元の大きさの三倍以上はあるだろう。全身に炎を纏った姿はまるで炎の巨人である。


「なんと、腕が再生しておりますな」


「なんという再生力だ、これが魔人の力なのか」


「ただの魔人ではないぞ! 俺は火の魔人アブドゥーラ、ガレウス様にお仕えする最上位魔人の一角だ!!」


 アブドゥーラの巨大化は止まらず、すでに元の大きさの五倍以上にまで膨れあがっている。


「まだ巨大化するのか、だがここで退くわけにはいかない!」


「その通りですな、ウルリカ様の学園祭はワシ等の手で守らなければなりませんぞ!」


「いくぞ! おおぉーっ!!」


 アルフレッドとノイマン学長は果敢に攻撃を仕掛けるものの、真の力を解放したアブドゥーラは二人の攻撃を全く寄せつけない。

 アブドゥーラを包む炎は鎧のように全身を守っている。凄まじい熱量にアルフレッドは近づくことすら出来ず、ノイマン学長の魔法攻撃も炎の鎧に防がれてしまう。


「どうした人間、その程度か!」


「くっ……ならば魔法剣だ!」


「面白い、受けて立とう!」


「うおぉっ、魔法剣!」


 目にも止まらぬ鋭い突き、同時に巻き起こる激しい竜巻。アルフレッドの放った魔法剣は、炎の鎧を吹き消しアブドゥーラ本体へと到達する。しかしアブドゥーラは全身を魔力で強化し、強靭な肉体で魔法剣を弾き返してしまう。


「先ほどよりもさらに硬い……っ」


「フンッ、その程度の攻撃で俺を倒せると思うな!」


 アブドゥーラは爆炎を巻きあげながらアルフレッドへと襲いかかる、巨体からは想像もつかない俊敏な動きだ。そして逃げ遅れたアルフレッド目掛けて巨大な拳を振りおろす。


「いかん!」


 ノイマン学長は咄嗟に風魔法を放ち、逃げ遅れたアルフレッドを強引に吹き飛ばす。直後にアブドゥーラの拳が打ち込まれ、大地は大爆発を起こす。


「ほっほっほっ、危ないところでしたな」


「はぁ……はぁ……、危うく死ぬところでした」


 激しい戦闘によってアルフレッドはボロボロだ。一見すると無傷に見えるノイマン学長も、魔法の連続発動によってかなり消耗している。しかし二人の目から闘志は消えていない。


「私に考えがあります、力を貸していただきたい」


「ほう、お伺いしましょうかな」


「まずはノイマン学長の魔法で──」



 ──────。



「──という流れです」


「ほっほっほっ、ずいぶんと無謀な作戦を考えるものですな。しかしウルリカ様のためとあらば、やり遂げるしかありませんな」


「ええっ、私達の手で愛しき少女の学園祭を守りましょう!」


 二人はガッと拳をあわせ、再びアブドゥーラへと立ち向う。一方のアブドゥーラは攻手が止んだことに機嫌を悪くしていた。


「なにをコソコソしている、さっさと攻めてこい!」


「待たせて悪かったな、では続きといこうか!」


 駆け出したアルフレッドは風の魔法剣でアブドゥーラへと斬りかかる。しかし殺意は感じられない、あくまで牽制を目的とした攻撃のようだ。

 不審に思ったアブドゥーラは、直後に強大な魔力を察知する。


「いきますぞ、第六階梯魔法!」


「本命はコイツか!」


 アブドゥーラは素早く反応しノイマン学長へと襲いかかる。

 対するノイマン学長は、巨人が迫っているにもかかわらず焦った様子はない。ゆっくりと杖を掲げて静かに魔力を解き放つ。


「雹雪魔法、ヘイルブリザード!」


 そしてアブドゥーラを襲う超低温の猛吹雪、かつてサラマンダーを一瞬で凍りつかせた第六階梯魔法である。

 真正面から第六階梯魔法の直撃を受けては、流石のアブドゥーラもただでは済まない。炎の鎧は吹き消され、全身は氷に覆われる。


「くっ……フハハハ! やるではないか!」


「ほう、氷漬けにされても倒れないとは驚きですな」


「バカめ、火の魔人である俺を凍らせることなど出来はしない! お前達の小細工など俺には通用しないのだ!」


 アブドゥーラは全身から魔力を放ち、瞬く間に氷を溶かしてしまう。とはいえ数秒は動きを封じられている、その数秒を狙いアルフレッドは追撃を仕掛ける。


「残念だったな、全て狙い通りだ!」


 アブドゥーラの背を一足飛びに駆けあがったアルフレッド、勢いをそのままに肩口目掛けて剣を突き立てる。


「おおぉーっ!!」


「なんだと──ぐあぁ!?」


 アルフレッドの放った一撃は、ついにアブドゥーラの強靭な肉体を貫く。アブドゥーラは苦悶の表情を浮かべながらも、即座に体制を立て直しアルフレッドを払いのける。


「くっ……まだ動けるのか!?」


「はぁ……ハハハッ、よい攻撃だった! しかし俺を倒すことは出来なかったな!」


 肩口に剣が刺さったまま、アブドゥーラは再び炎の鎧を身に纏う。


「楽しませてもらったぞ、ではトドメといこうか」


「トドメか、それはこちらのセリフだ」


 一方のアルフレッドは、剣を失ったにもかかわらずニヤリと笑みを浮かべていた。


「言っただろう、全て狙い通りだと!」


 そして戦いは最終局面へと突入する。

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