第165話 魔人との戦い
「「万死に値する!」」
叫ぶと同時にアルフレッドはスラリと剣を抜き放つ、美麗な装飾の施された細身の片手剣だ。
「この俺とやりあう気か……いいだろう、相手になってやろう!」
対するアブドゥーラは交戦的な目つきでアルフレッドとノイマン学長を睨みつける、全身から放たれる魔力は周囲の空間を歪めるほどだ。
「ノイマン学長、前衛は私にお任せを」
「しかし相手はかなり手練れの様子、温室育ちの王子様に相手が務まりますかな?」
「ふっ、あまり私を舐めないでいただきたい!」
アルフレッドは身を屈め、滑るようにして地を駆け抜ける。聖騎士にも引けをとらない見事な身のこなしでアブドゥーラへと斬りかかる。
「おおぉっ!」
「はっ、舐めるな!」
アルフレッドの速攻に対してアブドゥーラは素早く両腕を交差し、斬撃を真正面から受け止めてしまう。
「硬い……っ」
「上位魔人の肉体は特別だ、普通の剣など通用しない!」
「魔人だと? 吸血鬼や悪魔とは違うのか?」
「あんな弱小種族と一緒にするな、俺達こそ真に強き種族!」
「くっ、しかし負けるわけにはいかない!」
アルフレッドは立て続けに剣を振るう、常人では到底いなしきれない猛攻だ。しかし驚くべきことに、アブドゥーラは生身の肉体で全ての斬撃を防いでしまう。
たまらず距離をとるアルフレッド、一方アブドゥーラはニヤリと楽しそうに笑みを浮かべていた。
「やるではないか第一王子、これは楽しくなってきた! こいつ等は俺一人で相手をする、ザナロワは手を出すなよ!」
「はいはい分かったわよ、相変わらずの戦闘狂ね」
「くくくっ……さあ、もっと俺を楽しませろ!」
アブドゥーラは高々と拳をかかげ、膨大な量の魔力を握り込む。
危険を察知したアルフレッドはとっさに地面を転がる、直後にアルフレッドが立っていた地面をアブドゥーラの拳が打ち貫く。
炸裂する魔力、響き渡る爆発音、そして大地は粉々に弾け飛ぶ。アブドゥーラの放った一撃は周囲の地形を丸ごと吹き飛ばしてしまったのである、その様はまさに爆撃の跡だ。
「なんという威力だ……」
「まだまだ、こんなものではないぞ!」
アブドゥーラは雄叫びをあげ、再びアルフレッドへと殴りかかる。しかしアブドゥーラの相手はアルフレッドだけではない。
「させませんぞ! 電撃魔法、ライトニングボルト!」
ノイマン学長の放った電撃は一直線にアブドゥーラへと襲いかかる。直撃かと思われたが、アブドゥーラは拳を振りあげ強引に電撃を殴り返してしまう。
強靭な肉体を誇るアブドゥーラ、とはいえ電撃を浴びたことで僅かに体を硬直させる。その一瞬の隙をアルフレッドは見逃さない。
「勝機!」
「上位魔人である俺に普通の剣は通用しないと言ったはず──」
「普通の剣か……」
ニヤリと不敵に笑うアルフレッド、すると振りあげられた剣から揺らめく炎が吹きあがる。
「ならば魔法剣はどうだ!」
「なっ……ぐおぉ!?」
炎を纏った魔法剣はアブドゥーラの片腕を軽々と斬り飛ばし、さらに胴体までをバッサリと切り裂く。魔法剣の炎はアブドゥーラの全身を包み、噴き出す血しぶきを一瞬で蒸発させる。
「魔法剣だと……剣術だけでなく魔法まで使えるというのか……!?」
「私はあのクリスティーナとエリザベスの兄だよ、昔は二人に魔法や剣術を教えてあげたものさ」
「ぐっ……ここまでやられるとは……」
「ではトドメといきますかな……塵風魔法、デザートハリケーン!」
「おのれ人間ごときがぁ──」
巻きあげられた無数の砂塵は、横なぎの砂嵐となって立ち並ぶ木々を削り倒す。巻き込まれたアブドゥーラに防ぐ術はなく、全身を砂塵に揉まれながら森の奥へと吹き飛ばされていく。
辺り一帯は完全な更地と化し、ザナロワは一人ポツンと残されてしまう。しかしこの状況でもザナロワは余裕の表情を浮かべている。
「あら、人間のくせに意外とやるわね」
「あまり人間を舐めないでいただきたいね、さて次は貴女の番だ……」
喉元に剣を突きつけられてなお、ザナロワは余裕な態度を崩さない。
「ふふふっ……貴方達こそ上位魔人を舐めないでほしいわね」
小さく声をあげて笑うザナロワ、と同時に森の奥で巨大な爆発が起こる。
「フハハハッ! 最高に楽しいぞ!!」
パラテノ森林に響き渡るアブドゥーラの声。先ほどまで満身創痍だったにもかかわらず、嬉々とした声色で絶叫している。
「気に入ったぞ人間! お前達の強さに敬意を表し、上位魔人の真の力を見せてやろう!」
湧きあがる魔力、吹き荒れる炎、木々を薙ぎ払う巨大な人影。
「なんだ……あの姿は……!?」
「さあ、ここからが本番だ!」
真の力を解放するアブドゥーラ、魔人との戦いはまだ終わらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます