第161話 学園祭、開催!

 ポンポンと響く花火の音、ワイワイと賑わう人々の声。いよいよ今日は学園祭当日である。

 次々と訪れる来場者でロームルス学園は大盛りあがりだ。


「ハッハッハッ! 待ちに待った学園祭だ!」


 学園の正面入り口で仁王立ちするゼノン王。すぐ傍にはヴィクトリア女王とルードルフ、そしてアルフレッド、クリスティーナ、エリザベスも一緒だ。

 ロムルス王家御一行の到着である。


「今日はとことん楽しむぞ!」


 いつになく元気なゼノン王、しかし目の下には大きなクマを作っている。この日のために寝る間も惜しんで執務を終わらせたのであろう。


「あまり無理なさらないでください、過労で倒れてしまいますよ?」


「心配するなルードルフよ、さあいこう!」


 そう言うとゼノン王は、おぼつかない足取りでロームルス学園へと足を踏み入れる。そんなフラフラ国王の姿を一同は心配そうに見つめるのであった。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 まず最初に訪れたのは青々と広がる校庭である。

 輝く汗、脈打つ筋肉、息を切らせる男達。そして“筋力増強青空教室”と書かれた立て看板。


「おい、なんだこれは……」


 あまりにも珍妙な光景にゼノン王は眩暈を覚えてしまう。そこへ上半身裸のシャルルがやってくる。


「これはこれは国王陛下! ようこそいらっしゃいました!」


「確かシャルルといったな、これは……出し物なのか?」


「これは“筋力増強青空教室”! 筋力強化を目的とした画期的な出し物です!」


「筋力増強……なんだって?」


 睡眠不足のゼノン王では情報を処理しきれなかったらしい。シャルルの画期的すぎる発想と筋肉愛、恐るべしである。


「ぬおぉ! この器具は素晴らしい、足の筋肉が喜んでいる!」


「ふんっ! ふんっ! こちらの器具は腕にビリビリとくるな!」


 その間にも校庭では男達がせっせと筋肉を鍛えている。その姿を見てルードルフとクリスティーナはふと疑問を抱く。


「おや、どうやらロームルス城の兵士達まで参加しているようです」


「兵士達だけではない……聖騎士まで参加している……」


「アルテミア正教会の神官騎士団まで参加していますね」


 どうやら所属や立場を超えて様々な男達が集っているようだ。その光景を見たエリザベスは大いに感銘を受けたらしい。


「なんと素晴らしい出し物なのだ、見事だシャルルよ!」


「ありがとうございます、エリザベス様!」


「よし! 私もひと汗流していくとするか!」


 勢いあまって服を脱ぎ捨てようとする脳筋代表のエリザベス。アルフレッドとクリスティーナに取り押さえられ、ズルズルとその場から連行されるのだった。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



 続いて訪れたのは校庭の端っこに立てられた謎の天幕である。表の看板には“世界の珍味食堂”と書かれている。

 怪しげな雰囲気に躊躇しながらも、ゼノン王はそっと中を覗いてみる。天幕の中ではナターシャと一人の客らしき男が座っていた。


「おかしいです……お客様がきてくれません……」


「そう落ち込むな、うまくいかないこともある」


「ゴーヴァン様……ありがとうございます……」


 客らしき男の正体は聖騎士ゴーヴァンである。

 客の少なさに落ち込むナターシャと、そんなナターシャを静かに励ますゴーヴァン。二人はチマチマと謎の食べ物を口に運んでいる。


「私の出し物はイマイチだったでしょうか?」


「そんなことはないと思うぞ」


「もしかしてみなさん、珍味はお嫌いなのでしょうか?」


「そうだな、好んで食べる人間は少ないかもな」


「そんな……みなさん珍味大好きだと思っていたのに……」


「まあ……見た目がな……」


「見た目ですか……珍味達は可愛くないでしょうか……」


「ん……どうだろうな……」


 どんより重い空気にいたたまれなくなり、ゼノン王は無言で天幕を後にするのだった。



 ✡ ✡ ✡ ✡ ✡ ✡



「この行列は一体なんだ?」


 世界の珍味食堂を後にしたゼノン王は、ズラリと長い行列を発見する。

 行列の先は小さな露店のようだ、看板には可愛らしい文字で“聖女のお菓子屋さん”と書かれている。


「いらっしゃいませ! 順番にお並びください!」


 店頭で接客をしているのは、シャキッとした服装に身を包んだベッポだ。見事な動きで大量の客をテキパキとさばいていく。


「クッキー包みニ十個完成です! クイニーアマン三十個も用意出来ました! パンケーキ十五枚焼きあがりました!」


 店内でお菓子を作っているのは、可愛らしい衣装に身を包んだオリヴィアだ。目にも止まらぬ速度でお菓子を量産している、その速度はもはや人間業ではない。

 ベッポの持つ商売の才能、オリヴィアの持つお菓子作りの才能。二つをかけあわせた結果、爆発的な人気店を生み出したのである。


「凄い人気じゃないか、俺達も並んでみようか」


「でもあなた、ずいぶん時間かかりそうよ?」


「しかしせっかくだ、食べてみたいじゃないか」


「ふぅん……どうしても並ぶっていうのね?」


「もちろんだ、俺は並ぶぞ!」


「だったら私達の分も買っておいてね」


「ああ……ん?」


 行列に向かって一歩踏み出していたゼノン王、しかしヴィクトリア女王の思わぬ言葉でピタリと足を止めてしまう。


「待てヴィクトリアよ、お前達は並ばないつもりか?」


「お菓子を買うだけだったら全員で並ぶ必要はないわよね?」


「いやいやしかし……」


「お父様……私はクッキー包みを三つ……」


「私はもちろんクイニーアマンよ、故郷の味をよろしくね」


「私はパンケーキを一枚、エリザベスはどうするんだい?」


「ならば私もパンケーキだ、とりあえず五枚くらいにしておくか!」


「おい待てお前達! 冗談だろう!?」


 慌てるゼノン王を尻目に、ヴィクトリア女王は子供達を連れてさっさと別の出し物へと向かってしまう。残されたゼノン王は潤んだ瞳でルードルフに助けを求める。


「ルードルフ……」


「私はスコーンをお願いします、頑張って並んでくださいね」


「ルードルフ!? 待ってくれぇー!!」


 このあとゼノン王は一時間も行列に並び、ようやく目当てのお菓子を手に入れられたという。



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「うむ、見事なものだな……ポリポリ……」


「そうね、見事なものね……あまあま……」


 続いてゼノン王達が訪れたのは、屋外に設営された特設舞台である。

 舞台の上では生徒達による歌劇が披露されている、中心で歌い踊っているのは生徒会長のハインリヒだ。魔法の演出に彩られた素晴らしい歌劇である、しかし──。


「これは……想像以上に見事な味ね……ポリポリ……」


「オリヴィアの作ったお菓子、ここまでおいしいとは思わなかった……はむはむ……」


「彼女は大陸一のお菓子職人だね……はむはむ……」


 客席に座るロムルス王家御一行は、一心不乱にオリヴィアの手作りお菓子を頬張っている。生徒会による見事な歌劇も、オリヴィアのお菓子には敵わなかったようだ。


「あの行列も頷ける味ですね……サクサク……」


 普段は甘いものに興味を示さないルードルフまでお菓子を頬張り続けている、それほどオリヴィアの手作りお菓子はおいしいのだろう。


「並んだ甲斐があったというものだ……おや? もうクッキーはお終いか?」


「そうね……今ので最後……、食べ足りないわ……」


「パンケーキも終わりか、もう少し食べたかった……」


「エリザベスは五枚も食べているじゃないか、それ以上は太ってしまうよ?」


「ねえあなた? もう一度行列に並んでみる気はないかしら?」


「俺は二度とごめんだ!」


 ロムルス王家御一行はすっかりお菓子の虜である、まるで全員ウルリカ様になってしまったようだ。

 そうこうしている間に生徒会の歌劇は終わりを迎えてしまう、そして舞台上に置かれた演目台がめくられ──。


 ──“超本格舞台劇! 勇者と魔王、伝説の戦い!”──


「勇者と魔王? おいおいまさか──」


 嫌な予感を覚えるゼノン王、同時にド派手は音楽が鳴り響く。

 そして──。 

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