第140話 勝利の咆哮

 町を襲った吸血鬼はシャルロット達の活躍によって討伐された、しかしロアーナの町は依然として危機的状況に陥っている。


「「「「「ギイィーッ!」」」」」


 インプの群れは数を増やしながら、住人を襲い続けているのである。にもかかわらず今のところ住人に被害は及んでいない。

 シャルル、ヘンリー、ベッポの三人が、見事な立ち回りで住人を守り抜いているのである。


「ベッポ! 西側を煙で塞いでください!」


「よし、任せろ!」


「シャルル! そちらを片づけたら正面に突撃です!」


「承知した! うおぉぉーっ!!」


 ベッポは赤色の煙を撒いてインプをかく乱し、シャルルは筋力増強魔法による突撃を繰り返す。ヘンリーはシャルルとベッポに指示を出しながら、光魔法でインプの群れを牽制する。

 絶望的な数の差にもかかわらず、インプの群れを住人に近づけさせない。それぞれの強みを最大限に活かした見事な戦い方である。しかし──。


「くそっ、キリがないぜ!」


「倒しても倒しても! 次から次へと湧いてくるぞ!」


「どうするヘンリー! これ以上は抑えられないぞ!」


 あまりにもインプの数が多いのである。

 一体倒せば二体現れ、二体倒せば四体現れる。数を増していくインプの群れを相手に、流石のヘンリーも困り果ててしまう。


「このままではジリ貧ですね、ここは撤退も視野に入れるべきでしょうね」


「なっ、撤退だと!? 魔物の群れを前に逃げ出すというのか!」


「しかしボク達の体力がもちません。住人の避難が完了したら、撤退を開始しましょう」


「くっ……致し方ない!」


 戦況を考慮してヘンリーは撤退を判断する。住人の避難を最優先目標とした適格な判断だろう、シャルルも渋々ながらヘンリーの判断に納得する。


「ちっ、間に合わないか……それとも煙に気づかなかったのか……」


 そんな中、なにやら意味深なことを呟くベッポ。悔しそうな表情で空を見あげた、その時──。


「クオォ──……」


 空に響く甲高い鳴き声。

 赤い煙を切り裂いて、巨大な影が姿を現す。


「グオォォッ!」


 真紅のうろこに覆われた巨体、ギラリと光る鋭い爪と牙。空を舞う真紅の影に向かい、ベッポは高々と拳を振りあげる。


「待ってたぜアグニス!」


「グルオォォッ!」


 ベッポの相棒であるレッサードラゴン、アグニスが飛来したのである。


「ようやく来てくれましたか!」


「うおぉっ! 待っていたぞアグニスよ!」


「よく目印に気づいてくれた、流石アグニスだぜ!」


 実は先ほどからベッポが撒いていた赤色の煙は、インプをかく乱するためのものではなく、アグニスを呼び寄せるための目印だったのである。

 アグニスの参戦によってついに戦力は整った。これを好機と見たヘンリーは、一気に反転し攻勢をかける。


「今こそ攻め時ですね! 畳みかけてください!」


「群れているインプ共は俺とアグニスに任せろ!」


「よし、群れからはぐれたインプは自分が対処しよう!」


「いくぜアグニス! インプ共を焼き尽くせ!」


「グルオォッ……グルオォォーッ!!」


 そして放たれる炎のブレス。渦巻く灼熱の炎は、ウゾウゾと湧き続けるインプの群れを一飲みにしてしまう。


「「「「「ギイ……ィ……」」」」」


 炎に飲まれたインプは骨すら残らない。あれだけ数の多かったインプの群れは、あっという間に灰となって散ってしまった。

 群れからはぐれていたインプもシャルルによって討伐され、町を襲ったインプは完全に消滅した。


「よっしゃ! やったぜアグニス!」


「グオォッ! グオォォーッ!!」


「素晴らしい威力でした、おかげで助かりましたね!」


「凄かった! 本当に凄かったぞアグニス!」


 シャルル、ヘンリー、ベッポの三人は、アグニスへと労いの言葉をかける。三人に囲まれたアグニスは嬉しそうに鎌首をもたげ、そして──。


「クゥオォォーッ!!」


 勝利の咆哮が空高く響き渡る。こうしてロアーナの町は、危機を退けることに成功したのである。


 そしてその様子を、一匹のコウモリがじっと観察していた。

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