第126話 報せ

 一方ロアーナの町では、町の入り口から大通りにかけて露店市場が催されていた。南北それぞれの国からたくさんの商品が集まる、活気溢れる露天市場である。


「お菓子屋さんがたくさんなのじゃ! 楽しいのじゃー!」


「待ってくださいウルリカ様……おや? あの食材は新作のお菓子に使えるかも?」


「まあ! 珍しい紅茶が売っていますわね、どれもいい香りですわ」


「大変です、ステキな珍味があっちにも! こっちにも!」


「ちょっとみんな、少しは落ち着いて……あら? このお化粧品はなにかしら?」


 立ち並ぶ露店を前に大盛りあがりの女性陣。それぞれ興味の赴くまま、次から次へと露店へ突撃していく。

 そんな女性陣から少し遅れて、男子生徒達はのたのたと歩いてくる。のたのたと歩いている理由は──。


「重い……重すぎます……」


「いくらなんでも……買いすぎだろう……」


「ふぅ……そろそろ荷物に押し潰されそうだな……」


 女性陣が買った大量の荷物を抱えているからである。筋肉自慢のシャルルでさえ押し潰されそうなほどの荷物量だ。体の細いヘンリーは今にも死んでしまいそうである。

 しかし大盛りあがりの女性陣は、男子生徒達の危機的状況に全く気づかない。そして買い物を止めるつもりもない。


「この食材で新しいお菓子を……こちらの食材も組みあわせて……」


「ふふっ……明日は珍味食べ比べ大会をしましょう……」


「三才も若返るだなんて、そんな甘い文句には騙されないんだから……本当に三才も若返るのかしら?」


「さて、次のお菓子屋さんはどこにしようかの……うむ?」


「あらウルリカ、どうしましたの?」


「ふむ……東の方角から妙な魔力を感じるのじゃ……」


 そう言うとウルリカ様は、買い物を中断して町の入り口へと歩いていってしまう。

 ウルリカ様が自分からお菓子屋さんを離れるなど異常事態だ。買い物に夢中だった女性陣も、慌ててウルリカ様の後を追う。


「ウルリカちゃん! どこへ行くの!」


「ふーむ……おや? 誰か走ってくるのじゃ?」


 ウルリカ様が指差した先は、町の外から地平線へと伸びる街道だ。よく目を凝らすと街道の先から、誰かが猛烈な勢いで走ってくる。


「はぁ……はぁ……ヴィクトリア様ーっ!」


「あら? えっと……誰かしら?」


「はぁ……はぁ……私です! 聖騎士のスカーレットです!」


「スカーレット!?」


 ヴィクトリア女王が驚くのも無理はない。なにしろスカーレットは、薄手の肌着一枚しか着ていないのである。

 剣こそ手放していないものの、特徴的だった深紅の鎧は全て脱いでしまっている。そのせいでヴィクトリア女王は、スカーレットに気づかなかったのだ。


「ちょっとスカーレット、その格好は一体どうしたの!?」


「ご心配なく、走るのに邪魔だったので鎧を捨ててきただけです……それよりも、ヴィクトリア様にご報告があります!」


「報告? なにかしら?」


「はぁ……はぁ……間もなくロアーナの町に、魔物の群れが押し寄せます!」


「なっ、なんですって!?」


 スカーレットによってもたらされた恐るべき報せ。こうして楽しい課外授業は、終わりをむかえるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る