第127話 ヴィクトリア女王

 ロアーナの町に魔物が押し寄せる。

 スカーレットによってもたらされた報せは、予想だにしない恐るべきものであった。


「どういうことですの? どうしてロアーナの町に魔物が押し寄せますの!?」


「落ちつきなさいシャルロット、まずはスカーレットのお話を聞くべきだわ」


「そ、そうですわね……」


 報せを聞いたシャルロットは動揺を隠せない。しかしヴィクトリア女王の言葉で、なんとか落ちつきを取り戻す。


「スカーレット、説明をお願い出来るかしら?」


「実は先ほどまで、ロアーナ高原に魔物の大群が発生していたのです。クリスティーナ様とエリザベス様、そして私達聖騎士は、魔物討伐のために王都から派遣されたのです」


「ロアーナ高原に魔物の大群ですって!?」


「ご安心ください、ロアーナ高原の魔物は私達とロアーナ軍兵士で討伐しました。しかし討伐した矢先、今度はロアーナの町東部に魔物が発生したのです」


「ロアーナ地方は魔物が少ないなずなのに、どういうことかしら……」


「ロアーナ軍は魔物との戦闘で疲弊しており、すぐには動けない状態です。エリザベス様とクリスティーナ様は軍を預かる身として、疲弊した兵士達を放置出来ません。そこで一番足の速い私が、伝令を仰せつかったというわけです」


「そういうことね……報告ありがとう、状況は理解したわ」


 ロアーナ高原とロアーナの町は決して近い距離ではない。にもかかわらず短時間で走り抜けたスカーレットの速力は、凄まじいものといえるだろう。

 ヴィクトリア女王は見事伝令を果たしたスカーレットを労うと、ロアーナの町へと視線を移す。


「とにかく住人の命が最優先よ、急いで全員を避難させるわ」


「でもお母様、全員を避難させる場所なんて……」


「町の西側に王家所有の屋敷があるわ。かなり広くて食料も備蓄してある、そこに住人を避難させましょう」


 永らく国政にかかわってきただけあって、ヴィクトリア女王の判断は早い。


「疲れているところ悪いけれど、スカーレットも力を貸して」


「もちろんです! ロアーナの町には駐屯兵もいます、彼等にも協力を仰ぎましょう!」


「私も先頭に立って避難を呼びかけるわ、一刻も早く住人の非難を完了させるわよ!」


「かしこまりまし──えぇっ、ヴィクトリア様が先頭に立つ!?」


 スカーレットが驚くのも無理はない。なんと王族であるヴィクトリア女王が、危険を顧みず避難活動に参加すると言っているのだ。


「ヴィクトリア様は王族なのですよ、最優先で避難されるべきです!」


「私はロアーナ出身なの、ロアーナの町ではとっても人気者なのよ。私から直接呼びかければ、みんな落ちついて話を聞いてくれるはずだわ。それに──」


「それに……?」


「愛する国民を置き去りにして、逃げるわけにはいかないわよ」


 ヴィクトリア女王の言葉には、そして瞳には強い意思が宿っている。なにを言っても説得は出来なさそうだ。


「分かりました……ならば私の命に代えても、ヴィクトリア様をお守りします!」


「ありがとうスカーレット」


「あの……ワタクシ達は……」


「みんなは急いで屋敷に避難しなさい」


「でもお母様を残して──」


「これは先生命令よ、いいわね?」


「うっ……分かりましたわ……」


 こうしてヴィクトリア女王とスカーレットは、ロアーナ軍の駐屯所へと向かっていく。

 そして残された下級クラスは──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る