第117話 事件の終わり、そして──
ベッポとアグニスの乱入から少し時間が経ったころ。礼拝堂ではベッポの口から教会の外で起こった出来事が語られていた。
「──ってわけで、外の神官達は全員気絶してるよ」
「ウルリカ様……たった一人で神官の方々を気絶させてしまったのですね……」
「怒ったウルリカっすか……想像したくないっす……」
どうやら外の神官達は、ウルリカ様の怒りに触れ全滅してしまったようだ。
かつてウルリカ様と戦ったことのあるアンナマリアは、ベッポの話を聞いて顔面蒼白である。それほど怒ったウルリカ様は恐ろしい存在なのだろう。
「それはそうと……みんは椅子に座ってなにしてるんだ?」
「自分達はアルテミア様から、千年前のお話を聞いていたのだ!」
「アルテミア様から千年前の話? シャルルは一体なにを言ってるんだ?」
「とりあえずベッポも座れ、一緒にアルテミア様のお話を聞こう!」
「あ……あぁ……」
中断していたアンナマリアの話を聞くため、ベッポは事情が分からないまま無理やり長椅子に座らせられる。体の大きなアグニスは、礼拝堂の入り口から首だけを伸ばしている状態だ。
そんな中ウルリカ様は──。
「パムパム……ところでアルテミアよ、邪神ガレウスの復活を止めると言っておったな? 復活とはどういうことなのじゃ? パムパム……」
いつの間にやらマカロンを頬ばり、フラフラと歩き回るウルリカ様。しかし質問の内容は真剣そのものだ。なんとも自由気ままなものである。
アンナマリアはため息をつきながら、ウルリカ様の質問に答える。
「ガレウス邪教団を知っているっすか?」
「「「「「「ガレウス邪教団?」」」」」」
「邪神ガレウスを信仰する教団っす。悪魔や吸血鬼といった高位の魔物で構成された闇の教団っすよ」
「闇の教団……なんだか恐ろしいですわね……」
「邪神ガレウス復活を目論み、各地で怪しい儀式を繰り返しているっす。人々の命を生贄にする、恐ろしい儀式っす」
悪魔、吸血鬼、生贄と聞かされ、ハッとするオリヴィアとシャルロット。
「もしかして……私を生贄にしようとしたアルベンス伯爵は、ガレウス邪教団の一員……?」
「ロームルス学園に現れた吸血鬼も、ガレウス邪教団の一員かもしれませんわね……」
オリヴィアとシャルロットの顔色はすっかり青ざめてしまっている。かつて自分達を襲った恐ろしい存在を思い出しているのだ。
「ガレウス邪教団の目的は邪神ガレウス復活っす。そしてヨグソードの力を使えば、邪神ガレウスを復活させることが出来るはずっす」
「パムパム……ヨグソードの力で時間と空間を歪め、ガレウスを現世に戻すわけじゃな?」
「その通りっす。私はガレウス邪教団にヨグソードを奪われないよう、手元に置いておこうとしたわけっすよ」
話を聞いて「なるほどなのじゃ」と頷くウルリカ様、と同時に最後のマカロンを口に放り込む。クッキーに続いてマカロンまで、あっという間に全滅だ。
「うーむ……しかしヨグソードは妾からサーシャへの贈り物じゃからな……」
「だったらヨグソードはナターシャちゃんに持たせていいっすよ」
「ふむ? よいのか?」
「ガレウス邪教団に奪われないよう、しっかりウルリカが監視しててくださいっす! ……それにガレウス復活よりも、ウルリカを怒らせるほうが怖いっすからね……」
「任せておくのじゃ!」と小さな胸を張るウルリカ様。ポソリと呟かれたアンナマリアの本音は、どうやら聞こえていないようである。
ようやく話がまとまり、礼拝堂に緩やかな空気が流れる。そんな中──。
「うぅ……」
「ナターシャ! ナターシャが目覚めましたわ!」
長椅子に寝かされていたナターシャは、ゆっくりと体を起こす。
「ここは……?」
「乱暴して悪かったっすね」
「あ……アンナマリア様?」
「どうぞっす、ヨグソードはナターシャちゃんが持っててくださいっす」
「あ……え……?」
ナターシャはキョトンと首を傾げながら、恐る恐るヨグソードを受け取る。
こうしてナターシャ誘拐事件は、静かに終わりをむかえるのだった。
そして翌日──。
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