第114話 登場

「フシャアァッ!」


 アンナマリアの放つ強烈な威圧感を受けて、本能的に反応してしまったカーミラ。目にも止まらぬ速度で飛び出すと、一直線にアンナマリアへと襲いかかる。


「カーミラちゃん!」


 あまりにも突然の事態に、オリヴィアは声をあげることしか出来ない。

 その間にもカーミラは、ヒュンと風を切りアンナマリアの元へと迫る。一瞬にしてアンナマリアの背後へと回り込むと、鋭い爪をキラリと光らせ、そして──。


「おっと、可愛い猫ちゃんっすね!」


「フニャッ!?」


 カーミラの爪が突き立てられようとしたまさにその時、アンナマリアは一瞬にしてその場から姿を消してしまう。かと思いきや次の瞬間にはカーミラの背後に現れ、ヨグソードの先端でカーミラのお尻ツンッと突く。


「大人しくするっす、ほいっ」


「フニャ──」


 ヨグソードで突かれた瞬間、カーミラはその場でピタリと動きを止めてしまう。爪を立てて襲いかかろうとしていた姿勢のまま、空中で制止しているのである。まるで時が止まってしまったかのように、ピクリとも動かない。


「そんなっ、カーミラちゃん!?」


「えっ……どうしてカーミラは空中に浮かんでいますの……?」


「あれは一体なんだ……教主様はなにをしたのだ!?」


「ふふんっ、教主は強くないと務まらないっすからね!」


 そう言うとアンナマリアは、自信満々な態度で小さな胸を張って見せる。クルクルとヨグソードを片手で回し、まさに余裕綽々といった様子だ。


「さて、シャルロットちゃん達はこれからどうするっすか?」


「えっ……あ……ワタクシ達は……」


「ナターシャちゃんを連れて帰るだけなら、私はなにもしないっす。ヨグソードまで持って帰ろうとするなら……分かるっすね?」


 アンナマリアの言葉には、有無を言わせない静かな迫力がこもっている。息が詰まりそうなほどの緊張感に包まれる中。


「──シャは──じゃー」


 遠く微かに聞こえてくる、聞き覚えのある可愛らしい声。そしてズシンズシンと響いてくる、不穏な気配の振動音。


「おや? なにやら騒がしいっすね?」


 激しさを増す振動で礼拝堂はミシミシと軋んだ音を立てる。バラ窓には大きなひびが走り、天井からは石灰の欠片がパラパラと落ちてくる。そして──。


「サーシャはどこじゃー!」


 バンッと激しく開かれる扉、勢いよく飛び込んでくる小さな影。全身に魔力を漲らせた、魔王ウルリカ様の登場である。

 大切な友達を誘拐されてウルリカ様は怒り心頭だ。加えて寝起きのウルリカ様はすこぶる機嫌が悪い。


「サーシャはどこじゃ! サーシャを返してもらうのじゃ!!」


 怒りに満ちた視線でアンナマリアを睨みつけるウルリカ様。しかし次の瞬間には、ウルリカ様の表情から怒りの色は消え去ってしまう。


「うむ? もしやお主は……」


 一方のアンナマリアは顔色を真っ青に染めている。ウルリカ様と対峙したまま、ゆっくりと口を開き──。


「げげぇっ! まさかウルリカっすか!?」


 アンナマリアの大絶叫が、礼拝堂に響き渡るのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る