第113話 時空剣

 礼拝堂へと踏み込んだオリヴィア、シャルロット、シャルルの三人。グッタリと倒れるナターシャの姿を見て、三人は思わず息を飲む。


「お客さんっすか? ようこそっす!」


 倒れるナターシャのすぐそばで佇む、白銀に輝く幼い少女。軽い調子でヒラヒラと手を振り、気さくで明るい雰囲気だ。


「え……あっ、サーシャ!」


 少女から声をかけられ、オリヴィアはハッと我に返る。慌ててナターシャの元へ駆け寄ろうとしたところで、シャルルに止められてしまう。


「待つのだオリヴィア嬢!」


「どうしてですか!? サーシャが倒れているのに!」


「あのお方こそアルテミア正教会の教主、アンナマリア・アルテミア様なのだ!」


「えっ……教主様?」


「そうだ! 自分達のような庶民がおいそれと近づいてはいけないのだ!」


 教主アンナマリアを前にして、シャルルの顔色は緊張で真っ青だ。血の気の引いた顔色は、青というよりもはや青白い。

 張りつめる空気の中、一歩前へ出たシャルロットはアンナマリアへ向かって丁寧にお辞儀をする。


「お久しぶりですわ、アルテミア様」


「もしかしてシャルロットちゃんっすか? 久しぶりっすね!」


「アルテミア正教国へ伺った際、ご挨拶をさせてもらった以来ですわね」


「一年ぶりくらいっすね、元気そうでなによりっす!」


「アルテミア様もお元気そうでなによりです」


 二人のやり取りから察するに、どうやらシャルロットとアンナマリアは知り合いのようである。とはいえ教主アンナマリアを前にして、シャルロットはやや緊張した様子だ。


「まずは急に押しかけたことをお詫びいたしますわ」


「気にしなくていいっすよ、それより私に用事っすか?」


「ええ実は……そこに倒れているナターシャは、ワタクシ達の大切な友人ですのよ」


「おっと、それは心配させたっすね。でも安心していいっす、ナターシャちゃんは気絶しているだけっすから!」


 安心していいと言われたものの心配の拭えないシャルロットは、続けて質問を投げかける。


「あの……よければお聞かせ願いたいですわ。なぜナターシャは連れ去られましたの? なぜナターシャは気絶していますの?」


「実はのために連れてきたっす」


 そう言うとアンナマリアは、持っていた白銀の剣を掲げて見せる。


「この剣を譲ってもらうために、ナターシャちゃんを連れてきたっす。でも残念ながら断られてしまったので、優しく丁寧に奪ったんすよ」


「えっ、奪ったのですか!?」


「その時ナターシャちゃんに抵抗されて、仕方なく気絶させただけっす」


「そんなっ……どうしてサーシャの剣を奪ったのですか! それはサーシャの剣です!」


 食ってかかるオリヴィアに対して、アンナマリアは「違うっす」と首を横に振る。


「この剣の名は“時空剣ヨグソード”っす、間違いなく私の剣っすよ」


 アンナマリアは慣れた手つきでヨグソードを低く構える。幼い少女であるにもかかわらず、剣を操る所作は歴戦の戦士を思わせる滑らかさだ。


「ナターシャちゃんは連れて帰っていいっす、でもヨグソードは置いていってもらうっす。私にはヨグソードが必要っすから……」


 スッと目を細めるアンナマリア。ビリビリと空気を震わせる威圧感は、とても幼い少女のものとは思えない。

 あまりにも強烈な威圧感に、シャルロット達はビクリと身を強張らせてしまう。そんな中カーミラだけは──。


「フシャアァッ!」


「カーミラちゃん!?」


 強烈な威圧感を受けて、カーミラは本能的に反応してしまったのだ。目にも止まらぬ速度でアンナマリアへと襲いかかり、そして──。

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