第63話 怒りのシャルロット
「遅くなったのじゃ!」
突然として現れたウルリカ様。
そばにはシャルロットが、グッタリと地面に転がっている。
シャルロットを引き連れて、時空間魔法で転移してきたのだ。
「うえぇ……き……気持ち悪いですわ……」
人生初の時空間魔法で、シャルロットはフラフラしている。
突然の出来事に、エリザベスは声をあげて驚く。
「一体なんだ!? シャルロット? それにお前は……会議の時にいた少女か?」
オニマルの刀を掴んだまま、ウルリカ様はクルリと振り向く。
「エリベススは無事じゃな。しかし、そちらの二人は怪我をしておるのか……」
「エリベスス」と名前を間違われたエリザベス。
しかし、そんなことを気にしている余裕はない。
「そうだ、酷い怪我なのだ! 二人は私を庇ってくれて……」
「ふむ、分かったのじゃ」
コクリと頷いたウルリカ様。
片手でオニマルの刀を受け止めたまま、もう片方の手をパッと広げる。
「──治癒魔法、デモン・ヒール──!」
言葉と同時に、手の平から強烈な光が放たれる。
温かで柔らかな光は、スカーレットとカイウスを包み込む。
すると、二人の負っていた傷は、一瞬にして消え去ってしまう。
「スカーレット! カイウス! 凄い……今のは魔法なのか……?」
すっかり傷の癒えた二人を、エリザベスは呆然と見つめている。
そこへゆっくりと近づいていくシャルロット。
「お姉様……」
「シャルロット、どうしてここに──」
次の瞬間、シャルロットは片手を振りあげて、思い切り振り下ろす。
「エリザベス! あなたは一体なにをしていますの!!」
「なっ!?」
バチンッという音とともに、エリザベスの頬に衝撃が走る。
「あなたのせいで、ロームルス学園は酷い有様でしたのよ! もう少しで大変な被害を出すところでしたのよ! だと言うのにあなたは、こんな所でなにをしていますの!!」
再び鳴り響く、バチンッという音。
エリザベスの頬は真っ赤に腫れあがっていく。
「騎士団を放ったらかしにして! 勝手に突き進んで! 挙句の果てには部下に庇われて……民を守らずして、なにが王族ですの!!」
三度も頬を叩かれて、エリザベスは膝をついて倒れてしまう。
唖然とするエリザベスに、シャルロットはギュッと抱きつく。
「心配ばかりかけて……本当に……っ」
ボロボロと零れ落ちてくる涙。
「お姉様も……スカーレットとカイウスも……生きていてよかったですわ……うぅ……」
声をあげて涙を流すシャルロット。
エリザベスはそっとシャルロットの頭をなでる。
「シャルロット……すまなかった……」
ギュッと抱きしめあう姉妹。
一方、ウルリカ様に刀を掴まれていたオニマルは、強引に刀を引き抜いて距離をとる。
ガシャリと音を立て、上段に刀を構えるオニマル。
その気配に気づき、エリザベスは慌てて立ちあがろうとする。
「しまった! 先に魔物を倒さなければ!」
「ここは妾の出番なのじゃ、お主はゆっくり休んでおるのじゃ」
「バカなことを言うな! お前のような少女が、たった一人で勝てるわけないだろう!!」
剣を拾おうとするエリザベス、その手をシャルロットはそっとおさえる。
「心配いりませんわ、なぜならウルリカは──」
笑顔のシャルロットは、ウルリカ様の小さな背中を見つめている。
「最強の魔王様ですもの!」
「うむ! 任せておくのじゃ!!」
ニッコリと頼れる笑顔を浮かべて、全身から魔力を迸らせるウルリカ様。
そして、ウルリカ様とオニマルの戦いが幕を開ける。
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