第64話 ウルリカ様の力

 森の中を駆け回る、黒と赤の二つの影。

 黒い影はウルリカ様、赤い影はオニマルである。


 高速で走りながら、ウルリカ様は片手をオニマルへと向ける。


「──滅亡魔法、デモホロウ──!」


 膨れあがる漆黒の球体。激しく轟く叫び声。

 オニマルへと迫っていく、ウルリカ様の滅亡魔法。


「……キル!」


 対するオニマルは、真正面から刀を振り下ろす。

 ズバンッと音を立て、滅亡魔法を一刀両断にしてしまう。


「ほうっ、なかなかやるのじゃ!」


 姿を消したウルリカ様は、オニマルの背後へと現れる。

 体を霧に変化させ、一瞬にして回り込んだのだ。 

 

 オニマルの反応も早い。

 背後に現れたウルリカ様に向け、横なぎに刀を振るう。


「おっと」


 迫るオニマルの刀を、ウルリカ様は身を屈めてかわす。

 しゃがんだ体勢からオニマルの足を払い、思いっきり蹴りを放つ。


「ほれっ」


「……ッ!?」


 蹴り飛ばされ、吹き飛んでいくオニマル。

 離れていくオニマルに、ウルリカ様は一瞬で追いつく。


 片手を伸ばし、オニマルをつかもうとするウルリカ様。

 宙を舞うオニマルは、強引に体をひねってウルリカ様の腕を斬りつける。


「うむ! 見事な動きじゃな!」


 刀の直撃を受けたにも関わらず、ウルリカ様の腕からは血の一滴も流れることはない。

 腕を斬られた反動でグルグルと回転し、そのまま片足を振り下ろす。


「隙だらけじゃ、そりゃ!」


 強烈な回し蹴りを受けて、地面に蹴り落とされるオニマル。

 鎧にはウルリカ様の足跡が、くっきりと残っている。


「なんだ……この……凄まじい戦いは……」


「ウルリカ……強すぎますわ……」


 壮絶な戦いの光景を、シャルロットとエリザベスは唖然と眺めている。


「……コロス……ッ」


「まだまだ元気じゃな! 元気な魔物は大好きじゃぞ!」


 起きあがるオニマルを見て、ニッコリと嬉しそうなウルリカ様。

 スッと手の平を前へと広げる。


「ならば今度はもっと大きな魔法じゃ、しっかり耐えるのじゃ!」


 空間を歪ませる、強大な魔力。

 手の平に集まった魔力は、闇の塊を作り出す。


「──滅亡魔法、デモン・ホロウ──!!」


 再び現れる闇の球体。

 その大きさは、先ほどの滅亡魔法とは比べ物にならない。

 見あげるほど大きく膨れあがった球体は、木々を飲み込みながらオニマルへと迫っていく。


「オ……オニ……ニ──」


 巨大な滅亡の闇は、オニマルをあっさりと飲み込む。

 あとに残ったのは、大きく半円に抉りとられた地面だけだ。


 「ふむ、やりすぎたかのう?」


 立ち込める土煙と魔力の余韻。

 そんな中、ガシャリと音が鳴り響く。


「オニ……マル……」


 半円の中心で、ゆっくりと起きあがるオニマル。

 鎧にはひびが入り、一部はボロボロと崩れている。


 見るからに満身創痍な状態だ。

 しかし、放つ殺気は濃さを増したようにすら思える。


「おぉっ、ちゃんと耐えたのじゃな! 元気いっぱいじゃな!」


 トドメを刺せなかったにもかかわらず、ウルリカ様は嬉しそうだ。

 パチパチと拍手までする余裕さである。


「頑張り屋さんじゃな、気に入ったのじゃ! 配下にでもしてやりたいところじゃが、残念ながら言葉は通じぬようじゃな……。それにお主、なにやら妙な術か薬でも食らっておるのう? ずっと苦しそうで可哀そうなのじゃ」


「ワレ……オニマル……」


「ふむ? お主はオニマルという名前なのか? よい名前じゃな!」


「オニ……ニ……ナル……」


「ほう、鬼になりたいのか? お主の戦う理由はそれかのう?」


 空を見あげながら「ふーむ」と考え事をするウルリカ様。


「理由は分からぬが、鬼になりたいのじゃな……」


 じっと考え込んだ後に、ポンッと手を叩く。


「そうじゃ! よいことを思いついたのじゃ!」


 そう言うと両手を空高く広げ、静かに魔力を集中させていく。


「お主を鬼にしてやることは出来んのじゃ。その代わりお主には、本物の鬼を見せてやるのじゃ!」


 ウルリカ様の全身から、かつてない強大な魔力が湧きあがる。

 そして──。


「ゆくのじゃ……時空間魔法!」

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