第58話 出陣!
一方こちらは、教室塔の三階“優雅なるお茶会教室”。
集まっているのは、シャルロット、ナターシャ、シャルル、ヘンリー、そしてウルリカ様だ。
五人並んで、大きなガラス窓から下を覗いている。
「うーむ……人間側はまったく連携をとれておらんのう」
「むしろ邪魔しあっているように見えますわ……」
ガラス窓から見下ろす先では、人間と魔物の激しい戦いが繰り広げられている。
騎士団、学園、そして魔物と入り混じって、戦場は混沌とした状態だ。
「騎士団も学園も、負けるつもりで戦っているのでしょうか……?」
「はぁ……まるで素人の戦いを見ているようだ!」
ナターシャとシャルルも呆れた声を漏らしている。
そんな中、ヘンリーは冷静に状況を分析する。
「学園勢力は魔法を主体とした戦術のようですね。しかし魔物と騎士団の距離が近すぎて、うまく魔法を使えていないようです。騎士団勢力は剣での近接戦闘主体ですね。しかし学園の教師や生徒を守ろうとするあまり、陣形はバラバラです」
「まったく、指揮官はなにをしていますのよ!」
「学園側の指揮官はラヴレス副学長のようですね。しかし騎士団と言い争いばかりしていて、指揮官の機能を果たしていませんね」
「だったら、騎士団側はどうなっていますの!」
「ふむ、騎士団を仕切っておるのは、ゴーヴァンという騎士のようじゃな。今はサラマンダーにかかりっきりになっておる」
ウルリカ様の指さす先には、炎の中を駆け回るゴーヴァンの姿がある。
巨大なサラマンダーを相手に、たった一人で見事な立ち回りだ。
「あの魔物は討伐難易度Bです、本来であれば部隊を編成して臨むべき相手です。それを一人で相手にしているのですから、流石に指揮官としての務めは果たせないでしょうね」
「つまり、どちらも指揮官不在で、好き勝手に戦っているということですの? 信じられませんわ!!」
芳しくない状況に、シャルロットは憤りを隠せない。
「しかし不思議ですね。本来の王国騎士団であれば、小隊を組んだうえで各部隊に指揮官を配置するはずなのですが……」
ヘンリーの疑問に、シャルロットはうなだれてしまう。
「それは……きっとお姉様の仕業ですわ……編成にも口出しして、大きな部隊に“脳筋”な騎士ばかりを詰め込んだのだと思いますわ……」
「“脳筋”ですか……」
「“脳筋”ですの……」
暗い雰囲気の流れる中、一人のんきにクッキーを食べるウルリカ様。
「ポリポリ……さてロティよ、参戦するならば早い方がよいぞ?」
「ええ、ワタクシも我慢の限界ですもの。ベッポが戻ってきたら戦場に向かいますわ。でもウルリカは戦いに参加しなくていいですわよ」
「むぐむぐ……そうかの?」
「これはワタクシ達人間と魔物の戦いですわ。ですからワタクシ達だけで、やれるところまでは頑張りますの。ウルリカはワタクシ達を見守っていてくださいですわ!」
「むぐ! 分ふぁっふぁのじゃ!」
口いっぱいにクッキーを頬張って、大きく頷くウルリカ様。
とても頼もしく、そしてとても可愛らしい。
その時、チーンと音を立てて昇降機の扉が開く。
「シャルロット様、お待たせしました!」
汗だくで飛び込んでくるベッポ、背中には大きな荷物を背負っている。
「はぁ……はぁ……準備してきました!」
「ありがとうベッポ。さあ、行きますわよ!」
意気込むシャルロットだったが、ピタリと足を止めてしまう。
不安そうな表情で、じっと床を見つめている。
その顔を、ニュッと覗き込むナターシャ
「シャルロット様、心配しないでください! 私達は負けませんから!!」
ヨグソードを引き抜いて、ニッコリと笑って見せる。
「ナターシャ嬢の言う通り! 自分達を信じて、さあ命令を!」
金属の鎧を着こんで、ドンッと胸を叩くシャルル。
「作戦は完璧です、勝利はボク達にあり、ですよ」
本を杖に持ち替えて、メガネをクイッとあげるヘンリー。
「準備は万端です、いきましょうシャルロット様……ふぅ……」
ヨロヨロと立ちあがり、パンっと荷物を叩くベッポ。
「妾もおるのじゃ! 不安など吹き飛ばして、思う存分やってやるのじゃ!! ポリポリ……」
相変わらずクッキーを手放さない、なんとものんきなウルリカ様。
戦いとは無縁な可愛らしい様子に、小さな笑いが起こる。
「フフッ……ウルリカもみんなも、本当にありがとうですわ」
頼れる仲間に囲まれて、シャルロットは前を向く。
強い光を目に宿し、大きな声で号令をかける。
「それでは、あの阿呆共を叱り飛ばしに行きますわよ!」
さあいよいよ、下級クラスの出陣である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます