第59話 天使降臨

 激戦の続くロームルス学園。


 炎の息をまき散らし、サラマンダーは激しく暴れ回る。

 対するは聖騎士ゴーヴァンだ。


「シュルロロォッ!」


「流石は討伐難易度B、なかなかやるな!」


 サラマンダーの吐く炎の息が、ゴーヴァンへと襲いかかる。


「甘い! その程度の炎は通用しないぞ!!」


 素早く剣を振るゴーヴァン。

 凄まじい風圧で、サラマンダーの炎を切り裂いてしまう。


「基本から鍛え直した俺に、敗北などありはしない! 食らえぇっ!!」


「シュロロオォッ!?」


 切り裂いた炎をかいくぐり、サラマンダーへと一太刀を浴びせる。

 しかし硬いウロコに阻まれて、致命傷には至らない。


「くそっ、やはりトドメを刺すには、魔法攻撃も必要か……」


「シュロオォッ! シュロロオォッ!!」


 ゴーヴァンとサラマンダーの戦いは、激しさを増していく。

 一方戦場は、騎士団と教師と生徒と魔物と入り混じって、混乱の極みにあった。


「ダメだ! 学園の素人共を守りながらでは、うまく戦えない!」


「邪魔だ騎士団! お前達のせいで魔法を撃てないだろ!」


「こんなところで炎魔法を使うな! 森に燃え移るだろう! これだから素人は……」


「騎士団など無視しなさい! 我々の力でロームルス学園を守るのです!」


 いたる所で小競り合いを起こし、そのせいで劣勢へと追い込まれていく。

 いよいよ形勢は魔物達へと傾きつつあった。


 そんな中、戦場に甲高い声が響き渡る。


「いい加減にっ! しなさぁーいっ!!」


 凄まじく迫力のこもった声に、戦場の混乱はピタリと収まる。


「今の声はなんだ?」


「あれは……シャルロット様?」


「シャルロット様だ……どうしてこんなところに?」


 戦場から少し離れた場所で、シャルロットは腕を組み、仁王立ちをしている。

 オリヴィア以外の下級クラスも一緒だ。


「ナターシャ! シャルル! ベッポ! お願いしますわ!!」


「かしこまりました!」


「承知した!」


「よし、二人とも頼むぞ!」


 ベッポは背負っていた荷物を開く。中に入っているのは緑と紫の丸い物体だ。

 握りこぶしほどの大きさの玉を、ナターシャとシャルルに手渡していく。


「まずは緑から! どんどん投げろ!!」


「はいっ、投げます!」


「よしっ、投擲だ!」


 戦場を舞う緑色の玉。

 ぶつかった球は粉々に破裂し、緑色の液体を撒き散らす。

 そして戦場に、地獄のような光景が広がっていく。


「臭えぇっ! なんだこの液体は!!」


「鼻がもげそうだ、オエエェッ」


「こんなの耐えられないわ……うぇっ……」


「グギャアァァッ!?」


 そう、この緑色の液体、とにかく臭いのである。

 騎士団も教師も生徒も魔物も、慌てて最前線から退避していく。


「ギャアアァッ!? 頭からかぶってしまった、助けて……く……れぇ……」


 運悪く液体の直撃を受けたハインリヒは、あまりの匂いに気を失ってしまう。

 ピクピクと痙攣して、哀れな姿だ。


「どうだ! 父の商会で作った特別製品、“超激臭、魔物避け爆弾”だ! 臭すぎてまったく売れなかった問題商品だぞ!!」


「ううぅ……もの凄く臭いですぅ……」


「悪魔の兵器だな……」


 青い顔で鼻をおさえるナターシャとシャルル。

 ベッポは一人だけ、商品の威力に大喜びだ。


 突如訪れた地獄により、戦いは一時中断となる。

 それを見計らって、シャルロットは大声を張りあげる


「あなた達は一体なにをしているのです! 人間同士で争っている場合ではありませんわよ!!」


 キッと騎士団の方へ目を向ける。

 目はどんどんと吊り上がり、怒りの炎で赤く燃えあがっていく。


「この恥知らず騎士団! あなた達は民を守るための騎士団でしょう? だと言うのに、この体たらくはなんですの! くだらないことで争って、守るべき民を危険にさらして、恥を知りなさいっ!!」


 キッと学園の方へ目を向ける。

 怒りの炎は限界まで燃えあがり、頬を真っ赤に染めている。


「無能教師に無能生徒! 言うことばかり一人前で、まともに戦えもしませんのね! あなた達の戦いに誇りなど欠片もありませんわ! この無能集団!!」


 父親のゼノン王を彷彿とさせる怒りっぷりに、誰もが口を閉じてしまう。

 そんな中、一人シャルロットの前に立つ者がいる。


「ずいぶんとお怒りですね、シャルロット様」


「ラヴレス副学長……」


「酷い言い方をされてしまいましたね。しかし、この原因は全て騎士団に──」


「いい訳は禁止!!」


 ダンッと足を踏み鳴らすシャルロット。

 迫力でラヴレス副学長を下がらせると、後ろのヘンリーにコソコソと指示を出す。


「ヘンリー……今ですわ……!」


「任せてください……!」


 シャルロットの背後で、そっと杖を振りあげるヘンリー。

 同時にシャルロットは、腕を解いて大きく広げる。


「ここから先の戦いは、ワタクシに任せなさい!」


「いけっ……光魔法……!」


 翼のように両手を広げるシャルロット。

 次の瞬間、背後から輝く光の輪が浮かびあがる。

 ヘンリーの光魔法によって、光の輝きを演出しているのだ。


「なんだあの光は!?」


「あの光……まさか噂の……?」


「太陽の……天使様……」


「この戦い、必ず勝利へと導いて見せますわ! この第三王女……いいえ、太陽の天使、シャルロット・アン・ロムルスの手で!!」


 光の輪を背負い、一身に視線を集めるシャルロット。


 戦場に、太陽の天使が降臨する。

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