第47話 下級クラスの教室!

「爺様、なぜここに!?」


「なんじゃ、ハインリヒではないか」


 ノイマン学長の姿を見て、ハインリヒはギョッと驚いた表情を浮かべる。

 その様子に疑問を感じるヴィクトリア女王。


「爺様って? もしかして、ノイマン学長とハインリヒ君はご親類なのかしら?」


「その通りですな。ワシの名はノイマン・マックスウェル。彼の名はハインリヒ・マックスウェル。同じマックスウェルの一族なのですな」


「まあ、そうだったの? 知らなかったわ」


「あまり公には言うておりませんからな、知っている者は少ないのですな」


 そう答えて、ノイマン学長はハインリヒの方へと視線を移す。


「久しぶりじゃな、ハインリヒよ」


「久しぶりですね……爺様はこんな所で一体なにをしているのです?」


「ウルリカ様の作られた塔を見学に来たのじゃよ。ハインリヒこそ、生徒会の仕事はどうしたのじゃ?」


「まさに今、生徒会の仕事をしている途中ですよ。学園の敷地内に勝手に塔を建てられましてね、これから破壊するところです」


 ハインリヒの答えを聞いて、ノイマン学長は表情を曇らせる


「ウルリカ様の作られた塔を破壊? バカなことを言うでない」


「バカなこと?」


 キッと目を尖らせて、怒りの表情を浮かべるハインリヒ。


「“バカなこと”ではないでしょう? 勝手に学園の敷地内に塔を建てるなんて、許されるはずない。破壊して当然です」


「果たしてそうかのう? 勝手に塔を建ててはいかん、という校則でもあるのか? ワシの知る限り、そんな校則はないのじゃな」


 ハインリヒは「うっ」と言葉を詰まらせる。

 しかし、怯むことなくノイマン学長に反論する。


「下級クラスの教室は、例のボロ小屋だと決まっていたのです。それを勝手に──」


「わざわざボロ小屋で授業を受けさせる必要はないじゃろう? よりよい環境で生徒に学んでもらえる、よいことではないか」


 ノイマン学長は冷静に話を進める。


「これほどの立派な塔、建ててくれたことに感謝してもよいほどじゃな。それを破壊するなどと、まさしく“バカなこと”であろう?」


「くぅっ……しかし、下級クラスなのですよ……」


「ハインリヒよ、お主は下級クラスに対して、あまりにも偏見を持ちすぎじゃ。少し頭を冷やしなさい」


「……納得いかない……下級クラスのくせに……っ」


 ノイマン学長とハインリヒの間に、ピリピリとした緊張感が流れる。

 そんな中、マカロンを食べながらパッと手をあげるウルリカ様。

 相変わらずの自由さである。


「ノイマンに質問なのじゃ! 妾達はこの教室を使ってもよいのじゃよな? ……パムパム……」


「もちろんですとも! この場所は好きに使っていただいて構わないのですな」


 ノイマン学長の言葉に、ハインリヒはピクリと反応する。


「ちょっと待ってください! 爺様は下級クラスに関する意思決定から外されています。勝手に決めることは出来ませんよ!」


 得意気に笑みを浮かべるハインリヒ。

 一方ノイマン学長は、「ふむ」と呟き、落ちついた様子で答える。


「ハインリヒよ、それは間違っておるぞ。ワシが意思決定から外されたのは、下級クラスの授業中止、および教室をどの場所にするか、それだけじゃ。新たに教室を建て、それを下級クラスに割り当てる。これは別の問題じゃな」


「だからと言って勝手に──」


「ワシならば勝手に決められる」


 ニヤリと、しわくちゃの笑顔を浮かべるノイマン学長。


「なぜならワシは、学園長じゃからな」


 そう言って、じっとハインリヒの目を見つめる。

 深く重い、無言の圧力だ。


「さて……異論はあるかの?」


「……くそっ、爺様はおかしくなってしまった! どうして私ではなく、下級クラスの味方をするのだ!!」


 声を荒げながら、その場を去っていくハインリヒ。

 その背中を見ながら、ノイマン学長は大きくため息をつく。


「まったく、ハインリヒにも困ったものですな。自分の思い通りにならないからと、ああも反抗的になってしまうとは……」


 しんみりとするノイマン学長、その肩をツンツンとつつかれる。

 振り向くとそこには、笑顔のヴィクトリア女王の姿があった。


「ふむ、どうかしましたかな?」


「生徒達と教室を守ってくれて嬉しかったわ、どうもありがとう」


「ホッホッホッ、大したことではありませんな」


 ヴィクトリア女王のお礼をきっかけに、生徒達も次々のお礼の言葉を口にする。


「ワタクシからも感謝しますわ、カッコよかったですの!」


「ボクもお礼を言わせてください。それにしても、生徒会長を追い返してしまうとは、流石は学園長ですね」


「ノイマン学長ってただの奇行老人だと思っていました……そうではなかったのですね……」


「ちょっとサーシャ!? 奇行老人は言いすぎですよ!」


「ワシは奇行老人ですかな……」


 微妙な表情のノイマン学長に、ウルリカ様は小さな包みを差し出す。


「ありがとうなのじゃ! お礼にマカロンをあげるのじゃ! パムパム……」


「ひひぃっ!? ありがたき幸せですじゃ~!!」


 ひざまずき、涙を流しながら包みを受け取るノイマン学長。

 その様子に生徒達からは「やっぱり奇行老人?」と呆れた声があがる。


 こうして、ウルリカ様の作った教室塔は、正式に下級クラスの教室となったのだった。

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