第40話 下級クラスの教室?

 暗雲立ち込めるロームルス学園。


 下級クラスの三人とオリヴィアは、生徒会に連れられて学園の敷地の端まで来ていた。

 先頭を歩くハインリヒは、ボロボロの小屋の前で足を止める。


「着いたぞ、ここだ」


「……ここはなんですの?」


「黙って中に入れ」


「ちょっと! どうしてこんな所に連れて来たのか、説明はありませんの? それに、授業の中止についても理由を──」


「うるさい! いいから早く中に入れ!」


 抵抗するシャルロットとナターシャ。

 しかし、背中を押されて、無理やり小屋へと押し込まれる。


 一方ウルリカ様は、オリヴィアに支えられながら、フラフラと小屋に入っていく。

 まったく抵抗することなく、まるで魂が抜けてしまったようだ。


「授業は中止……授業は中止……授業は中止……」


 グルグルと目を回しながら、ブツブツと呟いている。

 授業の中止を言い渡されて、茫然自失になっているのである。


「一体なんなのよ……あら? あなた達は……」


 小屋の中では、三人の男子生徒が椅子に座って待っていた。

 ベッポ、シャルル、ヘンリーの、男子三人組である。


「よし、下級クラスはこれで全部だな」


 女子生徒を外に残して、一人小屋へと入ってくるハインリヒ。

 偉そうに腕を組んで、小屋の中をジロリと見回す。


「では今日から、お前達の教室はここだ」


「なっ!? 突然なにを言ってますの!」


 シャルロットは声を荒げながらハインリヒに詰め寄る。

 顔を真っ赤にして大激怒だ。


「納得いきませんわ! ちゃんと理由を説明してくださいですの!!」


「ふんっ、下級クラスごときに説明してやる義理はない!」


「おかしいですわよ! 下級クラスにも教室はあるはずですわ!!」


「教室はここにあるではないか、下級クラスにはこれで十分だろう?」


 言い争うシャルロットとハインリヒ。

 そんな中ウルリカ様は、茫然自失の状態からハッと我に返る。


「授業は! 妾の授業はどうなったのじゃ!?」


「話を聞いていなかったのか? 通知の通り、下級クラスの授業は全て中止となった。つまり学園からの授業は一切ない、お前達はここで好きに過ごしていて構わない」


 ハインリヒはペラペラと通知書を見せびらかす。


「先生は! 妾達の先生はおらんのか!?」


「ああ、言い忘れていたな。今年は下級クラスに教師はつかない。教師がほしければ自分達で見つけてきたらいい」


「ぐぬぬぅ……あんまりなのじゃ~!!」


 ウルリカ様の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちてくる。

 泣きじゃくるウルリカ様を見て、ハインリヒは「ふんっ」と鼻を鳴らす。


「嫌ならさっさと辞めてしまうことだな」


 シャルロットはウルリカ様の涙を、優しくふいてあげる。

 そして、キッとした目つきでハインリヒを睨みつける。


「下級クラス相手だからって、いくらなんでも酷すぎるのではなくて?」


「控えろ、私は生徒会長なのだぞ!」


「だったらなんだと言うのです!」


 ダンッと床を踏み鳴らして、立ちあがるシャルロット。

 あまりの迫力に、下級クラスのクラスメイト達はビクリと肩を震わせる。

 しかし、ハインリヒはまったく怯んだ様子はない。


「はっ! 太陽の天使などと呼ばれて、調子に乗っているようだな? しかし、学園ではお前の人気など通用しないぞ?」


「調子になんて──」


「黙れ! とにかく下級クラスの授業は中止! お前達の教室はここだ!!」


 扉を開けて、小屋から出ていくハインリヒ。


「くれぐれも上級クラスや一般クラスの邪魔はするな! 以上だ!!」


 バタンッと扉を閉めて、立ち去ってしまう。

 事情も分からぬまま、七人は小屋に取り残される。


「どうしてなのじゃ~! 酷すぎるのじゃ~!!」


 バタバタと泣き喚くウルリカ様。


「こうなったら、世界を滅ぼし──」


 ウルリカ様が物騒なことを口走った、その時──。


「ウルリカ様あぁっ!」


 勢いよく開く扉。

 飛び込んでくる一人の老人。


 顔面蒼白の、ノイマン学長の登場である。

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