第12話 シャルロット王女の策略

 パラテノ森林。

 ロームルス学園に隣接する森林地域である。


 広い森を舞台に、入学試験の最後となる実地試験が行われていた。


「はぁ……ずいぶんと歩かせるわね……」


 草木をかき分け、森の奥に向かって進む集団がある。

 シャルロット王女とそのチームだ。

 先頭を歩くのは、シャルロット王女の取り巻きの一人、少年ベッポである。


「ベッポ! 目的地はまだなのかしら?」


「申し訳ございません。念には念を入れて、森の奥の方で準備をしておりますので」


 長いこと歩かされて、イライラがつのるシャルロット王女。

 ベッポはペコペコと頭を下げながら、チームを案内し続ける。


 しばらく歩いたところで、小さな広場へと到着する。

 広場には一人の男が待っていた。


「ベッポお坊ちゃん、待ってましたぜ」


「悪かったな、少し遅れた」


「いえいえ、いつもお世話になってますのでお気になさらず」


 親し気に会話をするベッポと男。

 二人の元へシャルロット王女が近づいていく。


「ベッポ、その男は?」


「商人のザンガです。父が世話になっている、いわゆる裏の業者ってやつです」


「ベッポお坊ちゃんのお父様には、ずいぶんとご贔屓にしてもらってます。奴隷の趣味が大変よろしい方でして……」


「ザンガ! 余計なことは言わなくていい!!」


「へへへっ……とにかく人間の奴隷でも魔物でも、生き物ならなんでも取り扱ってますぜ」


 手をこすりながら、いやらしく笑うザンガ。

 いかにもうさん臭い雰囲気だ。


「確かベッポの家は商会を営んでいたわよね? ずいぶん悪い商売をしているみたいじゃない、お父様に言いつけてあげようかしら?」


「勘弁してくださいよ! 姫様のためにこうして手配したんですから」


「フフフッ、冗談よ」


 シャルロット王女にからかわれて、ベッポは困り顔だ。

 そこへザンガが話に割って入る。


「お二人ともお話はその辺りにして、商品をお渡ししますぜ」


 ザンガの指差す先には、布のかかった四角い物体が置いてある。

 大人の男でも見上げるほどの大きさだ。


「中を見せてもらえるかしら?」


「もちろんです、どうぞ」


 ザンガの手によって、掛けてあった布が取り払われる。

 中から現れたのは大きな金属の檻だ。そして──。


「グルルルゥ……」


 辺り一帯に獣臭が充満する。


「ひぃ……大きい……」


「これが……討伐難易度Cの魔物……」


 檻の中でうごめく、赤いうろこに覆われた巨大な体。

 日の光に照らされて、ギラリと光る鋭い爪と牙。


「ドラゴン……見事だわ! 生き物ならなんでも用意出来るというのは本当のようね」


「レッサードラゴンです、気に入っていただけたようで光栄ですぜ」


 かしこまって一礼をするザンガ。


「人間の指示に従うよう魔法で操ってます。王女様の好きに動かせますぜ」


「ご苦労様、あとはあの生意気な田舎者を襲わせれば──」


「あっ、あの……」


 上機嫌なシャルロット王女だったが、背後から声をかけられ不機嫌な表情に変わる。


「……なにかしら?」


「やっぱり止めた方がいいのではないでしょうか……危険すぎます」


 声をかけたのは、ウルリカ様と剣術試験を戦ったナターシャだ。

 振り返ったシャルロット王女は、キッとナターシャを睨みつける。


「ナターシャは話を聞いていなかったのかしら? 魔法で操っているから平気なのよ」


「ですが魔物の取引は法律で禁止されているはずです。こんな事がバレたらタダではすみません……」


「はぁ……ナターシャ、あなたワタクシに指図するつもりなのかしら?」


「い、いえ……」


「ワタクシは第三王女なのよ? 分かっているの?」


「す、すみませんでした……」


 威圧されたナターシャは、小さく縮こまってしまう。

 フンッと鼻を鳴らし、レッサードラゴンの方を向くシャルロット王女。


「あの田舎者、タダではすまさないわ……頼んだわよ、レッサードラゴン」


 怯むことなく檻へと近づいていき、持っていた杖でコツンと檻を叩く。

 次の瞬間──。


「グルオオォォッ!!」


「なっ!?」


 突如として暴れ出すレッサードラゴン。

 金属の檻を軽々と捻じ曲げ、ゆっくりと這い出してくる。


「ひいぃっ!?」


「レッサードラゴンが出てきたぞ!」


「なんてこった、大変だ!」


 慌てて逃げ出すチームのメンバー達。

 ベッポとザンガも、一目散に森の奥へと逃げていく。


「ちょっと、あなた達どこへ行くの!? 戻ってきなさい! コイツをなんとかしなさい!!」


「グオオォォッ!!」


「──きゃあっ!?」


 取り残されたシャルロット王女。

 解き放たれたレッサードラゴンが、シャルロット王女へと襲い掛かる。

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