魔王様は学校にいきたい!

ゆにこーん

第1話 魔王も真祖も飽きたのじゃ!

「魔王も真祖も飽きたのじゃ! 妾は学校にいきたいのじゃ!!」


 ここは魔王城。

 魔界の中心に建つ巨大な城だ。

 恐ろしい雰囲気の魔王城に、不釣り合いな可愛らしい声が響いていた。


「学校じゃ! 学校にいきたいのじゃ~!!」


 魔物達の集う謁見の間。

 豪華な玉座に座り、パタパタと足をばたつかせる少女がいる。

 十歳ほどの幼い見た目をしたその少女こそ、魔物の頂点にして魔王城の主。

 魔王ウルリカ様だ。


 突然のウルリカ様の駄々に、困った様子の魔物達。


「ダメですよ、ウルリカ様は最強の力を持つ魔物の王、そして高貴なる吸血鬼の真祖なのです。これからも偉大な魔王様として君臨し続けていただかないと」


 そばに控えていたタキシード姿の魔物、ウルリカ様の補佐役である宰相ゼーファードがなだめにかかる。

 しかしウルリカ様は、全く聞く耳を持とうとしない。


「嫌じゃ! 魔王も真祖も嫌なのじゃ!!」


「なぜですか? ウルリカ様が魔界を支配して千年以上、戦争も反乱も起きておりません。皆がウルリカ様を慕っている証拠です、なにも嫌なことはないでしょう?」


「それが嫌なのじゃ! 魔界はなにも面白いことが起こらぬ、退屈なのじゃ!」


「とても良いことではないですか。それに学校とは……一体どういうことですか?」


「よくぞ聞いてくれたのう! つい先日、あまりにも退屈すぎて人間界を覗いておったのじゃ。すると学校という場所を見つけてのう、そこでは沢山の若者が剣や魔法を学んでおったのじゃ」


 ワクワクとした表情で、学校の様子を説明するウルリカ様。


「人間界の学校ですか……なぜウルリカ様は学校にいきたいのですか? ウルリカ様の実力であれば、剣も魔法も学ぶ必要は無いでしょう?」


「ゼファは分かっておらぬのう、学校では共に学ぶ者のことを友達と呼ぶのじゃ。友達と過ごす学校生活はとても楽しそうじゃった。妾も友達が欲しいのじゃ!」


「友達でしたら学校にいかずとも魔界でつくれば──」


「出来るわけがないのじゃ! 魔王と友達になりたい魔物がどこにおる? とにかく妾も学校にいってみたいのじゃ!!」


 興奮した様子のウルリカ様は、ピョンと玉座から飛び降りる。

 そのままゼーファードの言葉も聞かずに、スタスタと歩き出してしまう。


「お待ちください! 魔界と人間界は次元が分かれております、人間界にはいけません」


「分かれているのではない、妾が次元を分けたのじゃ」


 ウルリカ様の言葉に、ギクリと顔をしかめるゼーファード。


「ゼファも知っておろう? 千年前に妾が時空間魔法で世界を分けたのじゃ。その妾が人間界に渡れぬわけがなかろう?」


「魔界はどうするのですか? ウルリカ様が人間界にいってしまうと、魔界を統治する者がいなくなります!」


「うるさいのう! 魔界はゼファに任せる、いい感じに統治しておくのじゃ!!」


「そんなっ!?」


「さて……いくかのう……」


 謁見の間の中央に立つウルリカ様。

 呼吸を整えると、静かに魔力を集中させていく。


「お前達、早くウルリカ様を止めろ!」


 ゼーファードの指示を受けて、慌ててウルリカ様を止めに入る魔物達。しかし、ウルリカ様の魔力が強すぎて、近づくことも出来ない。

 そうしている間に魔法の準備を整えたウルリカ様。空気が歪むほどの魔力を放ちながら、大きく両手を広げる。


「時空間魔法! 発動するのじゃ!!」


 ウルリカ様の言葉を合図に、大量の魔法陣が浮かび上がる。

 魔法陣に囲まれて、ウルリカ様の体が徐々に薄れていく。


「ウルリカ様、お待ちください~!」


「ゼファ! 皆の者! 後のことは頼むぞ!!」


 満面の笑顔で魔法陣に飲み込まれていくウルリカ様。


「妾は学校にいってくる!!」


 こうして、ウルリカ様は人間界に転移するのだった。

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