第19話:伏見京香は対抗する

 有栖川ありすがわ あやが甘ったるい声を出して、俺に身を寄せてくる。

 それを見た伏見の突き刺すような視線が痛い。


 伏見は無言だけど、俺に対してかなり怒ってるみたいだ。



『ムッキーッ! なになになに!? 有栖川さんが勇介君を誘惑してるーっ!? ちょっと胸が大きいからって、どーゆーことーっ!?』


 ──あ、俺に対してじゃなくて、有栖川に怒ってるのか。


 でも実物の方は、俺に対して冷たい口調で話しかけてきた。


「あの……東雲しののめ君?」

「な……なにかな?」


 瞳の奥で氷の炎がメラメラと燃え上がってるような伏見の表情が、冷た過ぎて怖い……


「あなたは……こんなイチャコラを見せつけるために、私をここに誘ったのかしら?」

「あ、いや、とんでもない!」


 伏見の目は、べたべたくっつく有栖川を鋭く見つめてる。

 だけど有栖川は、どこ吹く風だ。


『ああーん、もうっ! ムカつくー! 勇介君も有栖川さんを見て、なんだか嬉しそうだしーっ!』


 ホログラム伏見は地団駄を踏んで悔しそうだ。


 いや別に、俺ってそんなに嬉しそうな顔をしてるか?


 そう思ってリアル伏見を見たら──


 なんか胸を強調するように突き出してる!?

 しかも心なしか、肩をくねくねと動かしてるような気がするし……


 もしかしてコイツ、有栖川に対抗してセクシーなポーズをしようとしてるのではっ!?


 伏見……やめてくれ。

 きっと無理してやってるんたろ?

 お前はお前のままでいいんだよ。


 確かに俺はスケベだけど……

 それだけで女性を選んだりしないから!


 ──とか言いながら。

 俺は伏見の形のいいおっぱいに、目を奪われていた。


『やったー! 勇介君が私をみてる! どうだっ! ほれっ! ほれっ!』


 あーっ、伏見が更に胸を強調してる。

 無理しないでいいって思ったけど……


 これだけの美少女があんなポーズ。

 こっちも鼻血が出そうだ。


 それにしても──

 今日の俺は、目の保養ができすぎだ。


 もうまともな生活に戻れなくなったらどうしよう……


 ──不安だ。

 

「あ、あのさ、みんな!」


 嵐山あらしやまが突然上げた声で、我に返った。

 嵐山は表面上はニコニコしてるけど、ホログラムは憮然とした顔をしている。


『なんだよなんだよ! なんか勇介ばっか、モテてる感じじゃね? 俺の方がイケメンなのに……』


 スマン、嵐山!

 俺にだって、訳がわからんのだよ。


 確かに嵐山の方がイケメンだし、なんか彼に悪い気がする。


 そう思って、有栖川の肩を押して、少し距離を開けた。

 有栖川は口を尖らせて、ちょっと不満そう。


 ──許せ、有栖川。


 別に俺は伏見と付き合ってるわけじゃないけど、あれだけ心の中で俺を絶賛してくれている彼女を裏切るわけにはいかない。


 それに有栖川の真意がわからない以上、べたべたくっついてくるのを受け止めるわけにはいかないんだよ。


 そう。有栖川のホログラムは、相変わらず見えない。


「あのさ、昨日面白いことがあってさぁ……」

「ん? なになに嵐山。教えてよ」


 嵐山が場の空気を変えるために別の話題に振ってくれて、俺もそれに乗っかっていった。


 有栖川はちょっと不満げな表情を浮かべたものの、気持ちを切り替えたのか、「へぇー」とか言いながら嵐山の話題に耳を傾けだした。


 嵐山は得意のトーク力で面白おかしいバカ話をして、有栖川もケラケラと笑ってる。


 助かったよ嵐山。




 嵐山がバカ話を振ってくれたおかげで、それからしばらくは特に中身のないバカ話をみんながして、割とほのぼのした雰囲気で時間を過ごした。


 みんなと言っても、さすがに伏見はバカ話なんてするはずもなく、クールな表情で他の三人の話を聞いてるだけだったけど……


 それでも時々クスっと笑いながら、話を聞いていた。

 特に嵐山の話は面白いようで、何度かクールな表情を崩してる。


 嵐山のバカ話は、ちょっと下ネタも入ってたりもするんだが、伏見がそんな話もイケるみたいで、ちょっと意外だ。


 ……いや、それどころか、伏見のホログラムは、お腹を抱えてゲラゲラ笑ってる。


 ──めっちゃ喜んでるじゃないか!


 伏見ってクールな仮面を被ってるけど、案外下ネタもオッケーな人なのかっ?


 ──意外だ、意外だ、意外だ。


 でもまあなんとなく、伏見の人間くさい部分も見えたような気がして、俺的には好感度がアップしたんだけど。



 しかし──

 嵐山のバカ話がひと段落して話が途切れた時に、ふと隣の有栖川が俺の顔を見上げて、突然爆弾発言を投げ込んできた。


「ところで勇介ぴょんって、彼女いるの?」

「ぶふぉっ!」


 ストローを口にしてたコーラを、俺は思わず吐き出した。

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