三日夜の月をキミと一緒に
たいらごう
プロローグ
それが運命の瞬間だったというのなら、そうかもしれない。
窓から、冬の弱い太陽が作り出す淡い光が差し込み、佳月(よしづき)希海(のぞみ)の横顔を照らしている。
男のくせにと陰口をたたかれるほど長くまっすぐな黒髪には、琥珀色の天使の輪ができていて、それがどこか幻想の世界の光景のようだった。それを見つめる早瀬(はやせ)彼方(かなた)の時間が、しばらくの間止まってしまう。
希海は親指を口元に当て、爪を噛みながら窓の外を見つめていた。そう厚くも無い唇は薄紅色をしていて、口を閉ざすと湿り気を帯びてその色を増す。長い睫毛からは、瞬きをするたびに、光の粒がこぼれた。
彼方の喉が、飲み込んだ唾液で音を立てる。まるでその音に気付いたかのように、希海が彼方の方へと顔を向け、そして物憂げに目を細めながら眉をひそめた。
少し丸みを帯びた可愛らしい顔立ち、と言っていいだろう。しかしその顔には、いつも硬い表情が張り付いていて、男子連中は妬みを込めて『能面』と評している。しかし女子からは、それがギャップにも見えるのだろうか、随分と人気が高いようだ。
「先生が、佳月を呼んで来いって」
彼方が希海に声を掛ける。
「ありがとう」
高い旋律を奏でるような透き通った声で希海はただそうとだけ返事をし、鞄を手に取ると席を立った。彼方の横を通り過ぎ、背中まで届くほどの髪を揺らしながら教室を出ていく。その髪から漂う涼しい香りが彼方の鼻をかすめ、それが甘い余韻を残しながら鼻腔を通り抜けていった。
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