法術概論Ⅶ -Lunch-

なんだか疲れたな。というか、お腹が減った!


人前で話すってこんなに疲れるんだ。


机に突っ伏していた状態から顔を上げると先生の周りには何人かの学生がいて、何やら談笑をしている。


ふぅん、人気の先生なんだ。


「お、お疲れ様!

 フルゥ?だったよね。

 すごかったなあ。」


この疲労の原因を作った重罪人が突然に声を掛けてきた。


「ありがとう。

 あんたのおかげでこっちは疲労困憊。」


「わりぃ!わりぃ!

 でも、あの時声掛けてなかったらきっと授業態度で減点されてたはず

 だって!

 あ、俺は郷ケ丘!郷ケ丘夏実。」


「赤館です。よろしく。」


「苗字は知ってるよ!名前は?」


「亜希だよ、亜希。」


「おう、赤館亜希さん!よろしくな!」


なんか自分のペースだな、こいつ。


でも、下手に女子っぽいグループに入るよりかはこういう奴と適当に学生生活を過ごした方がいいか。


「磐城先生のこと気になる?」


二人一緒に先生に視線を送る。


「磐城っていうんだ、あの先生。」


そう答えると郷ケ丘は、マジかよと言った表情で私を見ている。


「磐城和文。

 日本でも有名な法術家系一族の跡取りだよ。

 何のソームに祝福されているかは分からないけど、火属性の法術なら世界で

 もトップクラスって噂。」


「へえ。物知りだね、あんた。」


「法術、法術って言ってもいつまでたっても情報が世界を制するんだよ!

 これは俺の持論な。」


郷ケ丘はドヤ顔で台詞を決める。


私は父から教わったことしか知らないな。


法術家系とか、もしかしたらフルゥのことも何か昔の記録が残ってるのかも。


ここの図書室で調べてみようかな。


それか磐城先生?に聞けば分かるかも。


「なあ!昼メシいこうぜ!

 3食のビーフシチューが絶品なんだ。」


「いいけど。

 あんたの奢りだよ。」


「え!?まあ、いいか。

 バイト代入ったし。

 友達記念てことで。」


「よくわかんないけど契約成立ね。」


今日のランチが決まった。


嫌いじゃないな、こういう奴。





3食からの帰り道、上機嫌で校内を歩く。


郷ケ丘の言った通り、3食のビーフシチューはとても美味しかった。


「本当に美味しかった。

 あんなにおいしいごはんを食べたのは久しぶり。」


「は?お前いつも何食ってんの?」


郷ケ丘は驚きながら私に聞く。


こいつの感情は忙しいな。


「何って。

 人と同じ量だとすぐにお腹減っちゃうからインターネットで安いインスタント

 を大量買いしてそれを食べてるけど。」


「おいおい、いつの時代の学生だよ。

 確か学生課に祝福受けてるって申請出せば学生証ICに特例措置コードを追加し

 てくれるはず。

 それで、学食の量も増やせるし個室で食べれるって学生課からのメールで見

 たな。

 個室で食べれるんだから人の目を気にせずたんまり召し上がれますよ?」


本当に?と私は立ち止まって郷ケ丘に再度聞き直した。


「おう。タブレットで見てみなよ。

 大学から送られてきただろ。」


タブレット?もしかして入学前に送られてきたあの大きなケースの中に??


なんだか近未来な装備と分厚い説明書がいっぱいでそのままそっと蓋をしたやつだ。


「そのような物は見た記憶がございません。」


「お前さ、何かすごいのか変なのかどっちかわかんないよ。」


郷ケ丘は苦笑いしながら学生課まで案内してくれた。


なんて、便利な友達だ。


これからも郷ケ丘とは仲良くしていこうと私は誓った。






学生課の職員が特例措置コードを学生証ICに追記してくれるまでそれ程時間はかからなかった。


ソームの詳細情報は国家機密なので国から認定された電子証明書を提示しただけであとは職員がカタカタとデータを打ち込み、隣接してあるプリンターにICをかざしただけでコードが追記されたようだ。


「これでコード追記は終わりました。

 祝福を受けている学生は校内施設で特別措置を受けることができます。」


職員は掌くらいサイズの冊子を手渡してきた。


「詳しくはこの資料に目を通してみてね。

 タブレットにも電子版を学生課からメールしてあるから。

 分からないことがあったらまたここに来てくれれば教えます。

 それと、一つ注意してほしいことがあるんだけど、同じく祝福を受けている学

 生を詮索したりはしないでほしいの。

 偶然に分かってしまった場合は仕方ないわ。

 中には祝福を受けていることを知ってほしくない学生もいるの。

 あなたはどうか分からないけど言っておくわね。」


わかりました。ありがとうございます。と私は職員に頭を下げた。


祝福を受けていることを隠したいのも分かる気がする。


私ももしかしたらそうだったかもしれないから。


学生課から出ると郷ケ丘は壁に寄りかかって3Dフォンで誰かと通話していた。


その表情は何とも言い難い複雑な表情だ。


こちらをちらっと見ると、じゃあ、切るわ。と言って郷ケ丘は3Dフォンをポケットに突っ込んだ。


「お待たせ。

 待たせちゃったね。

 お詫びにコーヒーでもどう?」


「お、いいねえ。

 ああ、でも、ごめん。

 次の講義の予習をしておきたいから図書室に行きたいんだ。」


「そっか、じゃあまた今度で。

 ていうか意外と真面目なんだね。」


「まあな。

 でも、本音を言うと予習しておかないと分からないことも多くてさ。」


苦笑いした郷ケ丘は気まずそうに少し遠くを見た。


「そういや、さっきのって最新の3Dフォン?」


赤館は話題を変えようと郷ケ丘に聞いた。


「そうそう。そうなんだよ!

 予約したのがやっと届いてさ。」


「さっき誰かと話してたよね。

 あれがホログラム通話ってやつ?」


「ああ、母親。学生生活はどう?とか、勉強ついていける?とか。

 そんなの。

 心配してくれるのは嬉しいんだけど。

 ほっとけよってな。」


「まあね、私の母親も大体そんな感じだよ。」


どこの親も同じか、実家にいる時は早く自立しろっていう割にいざ家を出ると連絡が頻繁に来る。


「赤館さ、番号教えてよ。

 ホログラム通話見たいんだろ?」


「うん、いいけど。

 私のは3Dフォンじゃないよ。

 できるの?」


「まあまあ、やってみなっせ。」


郷ケ丘に言われるがまま赤館は番号を告げると、郷ケ丘は慣れた手つきで3Dフォンを操作している。


情報収集が得意そうだし、こういう最新ITも好きなんだろうな。と赤館は思っていた。


着信があったら出て。と郷ケ丘の言う通りに赤館は郷ケ丘からの着信に『通話』をタップする。


はい、と赤館が答えると郷ケ丘の3Dフォンはぼんやりと赤館の顔を立体的に映し出した。


「えっ!?どういうこと!!?」


「くぅ、その顔が見たかったんだよなあ。」


郷ケ丘は少年のような笑顔で3Dフォンを掌の上に乗せている。


「だって、私のは3Dフォンじゃないのに・・・」


「これは赤館が話した声の振動にマナが反応して声帯の構造を解析してるんだ。

 それと同時にマナ同士が共振と反響をして赤館の顔の輪郭をこの3Dフォンのホ

 ログラム機能にフィードバックしてるんだよ。」


「言ってる意味がよく分からない。」


「イルカとかコウモリなんかが超音波を利用して回りの状況を判断するだろ?

 要はあれの応用だよ。」


郷ケ丘は丁寧に説明してくれているが、理系が苦手な赤館は耳から大量に入ってくる長い横文字と漢字の羅列で脳が崩壊寸前だった。


「オーケー。オーケー。分かったよ。郷ケ丘くん。

 この議論はまた今度にしようじゃないか。」


赤館は永遠に続く郷ケ丘の最新家電話を強制終了させた。


「とりあえず、理科系科目で分からないことがあったら頼れる奴できたってことが分かってよかったわ。」


郷ケ丘はまだ話したそうに目をキラキラと輝かせていたが、そしたら文科系科目は頼むぜ。と赤館に親指を立ててGOODのサインを送っている。


「それじゃあ、図書室まで一緒に行こう。

 私も調べたいことがある。」


「いいよ。案内するよ。」


ホント便利な奴。

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