シェィディ グローヴ
迷想
第1話
墓掘り人のマルコ。嫌われ者のマルコ。鼻をつまみ眉をひそめざるを得ない悪魔の所業を平然と行う呪われた仕事。唾棄すべきもの。あんな不気味な仕事を進んでする者は頭がどうかしているから。気味の悪い、奴隷以下の仕事。まったく、目障りなものだ。できれば近寄りたくはない。それが僕の生まれ育った、村人の総意だった。
やあマルコ。君は今日も勤勉に働いているね。
君は君自身の仕事を穢れた仕事だと言うが、私はそうは思わないよ。君の仕事はこの世に必要不可欠な死者を弔うための重要な任務であり、同時に村を感染症から防ぐための立派な仕事だ。もし仮に君の仕事が無ければ放置され山積みになった遺骸からはすぐさまネズミや蚤が大量に発生し、ペストなどの恐ろしい伝染病が蔓延してあっという間にこんな小さな村は滅んでしまうことだろう。君はその仕事を誇りに思うべきだ。少なくとも私はそう思う。…私のような神に仕える立場の者から、このような不遜なことを意見するなどとは、些かおこがましいことだがね。
この村のオルチャの丘の上にあるたった一つだけの教会。そこの神父様はこんな僕にいつも慈悲深い言葉をかけてくださる。
まだ年若いのに落ち着いて物腰の柔らかな、聖職者というお立場に相応しい清潔な穏やかでよく透き通る声を持った方だった。
つい先日奥様を亡くされたらしいが、僕ら信者に対してついぞその態度が変わることはなかった。
しかし僕の仕事を呪われた仕事、汚い仕事だと口々に噂をし、眉をひそめるのはまさにその同じ村に住む村人たちだ。葬送のたびに本来ならば最も穢れているはずの僕の掘った穴にうやうやしく死者の棺が納められ、神父様は参列者の前に立ち神様への祈りを捧げる。こんなことを考えてはいけないと感じながらも、僕は少なからず両者の立場の違いに思いを巡らせずにはいられなかった。
確かに、僕の仕事を死神の手伝いをしていると感じる者はいるだろう。反して神父様は神の教えを村人たちに伝え、人々を導く尊いお立場だ。本当に、こんなことを考えても仕方がない。五月の太陽が照りつける中、僕は額に汗しながら、今日も墓地の一角にスコップを刺し、柔らかい土を掬い、泥だらけになりながら見知らぬ誰かの眠ることになる新しい穴を黙々と掘り返す。
先日僕の掘った穴には、村の若い女性が納められたそうだ。彼女は不具の人であり、不運にも海に落ちたらしい。葬儀はこの村のものとしてはなかなかに立派で荘厳で崇高なものであり、美しく清らかなものだったと伝え聞いた。きっと両親は生きている間に人並みの人間らしい人生を送らせてやることができなかった自負があり、だからこそ少ない蓄えから故人のためにできる限りの葬送を行なったのではないだろうか。僕は見も知らぬ家族の死者を悼む想いを想像し、ぼんやりとそんなことを思った。
─おいマルコ、昼メシの時間だぞ。
シェィディ グローヴ 迷想 @L7___L7
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