第2話

「お、お前が………俺の未来の嫁?」


 嫁。つまりは結婚する相手。

 ふむ。訳が分からんな。


「嘘だろ?」

「本当だよ」

「俺ってこんなガキと結婚したの?」

「今ガキの姿の一斗くんにそう言われるのは気に食わないけど、実年齢は………一斗くんよりも年上だから」

「今自分の歳を隠したな?」


 俺は見逃さんぞ?


「………うるさいよ」

「じゃあ聞くがどうやってお前はタイムスリップしてきたんだよ」

「それは机の引き出しの中にあるタイムマシ………」

「言わせねえよ!?というか俺の部屋にそんな勉強机はない」


 そんな冗談はどうでもいい。

 とりあえず俺は真実が知りたいのだ。


「あはは。でもどうやってタイムスリップしたのかは私にも分からないの。気が付いたらこの時代にいたから」


 少し困った顔をしている。

 別に嘘をついているわけではないらしい。いや、それ以前に本当にタイムスリップしてきたのか?


「じゃあ何で俺が上技一斗でここに住んでいるって分かったんだよ。言っとくけど俺がここに引っ越してきたのは昨日だからな?」

「うーん。愛の力かな」

「却下だ。そんな理由は認めない」


 それに気持ち悪いからやめろ。


「えー。でも本当にそうなんだけどな。だって一斗くん、全然見た目変わってないもん」

「え?そうなの?」

「うん。あ、でも身長はもっと高くなってるかも」

「マジで?」


 今が大体百七十五だから………まさか男子の理想郷、百八十センチか?


「………ぷ」


 何故か笑われた。


「おい、何で笑うんだよ」

「いや、だって散々疑ってたくせに、すぐに信用してるんだもん」


 あ、いやこれは………。


「だ、だって仕方がないだろ!未来だぞ?そりゃ少し気になるのは当たり前だし」


 そう誰だって気になる。自分の未来は。一体どんな大学に進学して企業に就職してどんなキャリアを積んだとか。それに容姿だって、当たり前だけど気になる、


「じゃあ私のことは信じてくれるんだね?」

「………それは」


 常識的に考えればまずありえない状況だ。もしかしたら金目の物を狙った新手の強盗かもしれない。

 かと言って全く信じていないわけでもない。さっきからの俺を知っているような口ぶりとか、嘘ではなさそうだし。


「もっと具体的な証拠がないと信じない」

「具体的な証拠かー」


 すると女の子………いや、上技…………いや、楓は顎に手を当てて考える。


「そうだね。じゃあ証拠を見せるよ」


 そう言って楓は立ち上がる。


「ん?何する気だよ」

「夕ご飯を作るんだよ」

「………それが証拠になるのか?」

「まあ、私の主婦力を見せつけるためでもある」

「おい」

「あはは、でも一斗くんの子のみは把握しているつもりだよ」


 そう言って優しい笑みを見せる。

 俺はドキッとした。


「やっぱり可愛いなあ」


 楓は身を乗り出して俺の顔を覗いてくる。

 俺は慌てて顔を逸らした。


「う、うるさい」


 チラ。

 こう見ると案外胸もでかいんだな………。


「今胸見たでしょ」

「見てない」


 何で分かるんだよ。


「お嫁さんだから」

「俺何も言ってないぞ?」

「一斗くんは分かりやすいからね。あ、エプロンってある?」

「無いな。それ以前にご飯の食材も無い」

「その心配はいらないよ、買っておいたから」

「用意周到過ぎて怖い」


 楓は一人暮らしの小さい冷蔵庫からいくつかの食材を取り出す。幸い鍋やフライパンと言った道具はちゃんとある。良かったな、俺だったら一生使ってなかったぞ。

 小さなキッチンと向かい合う楓の背中を見ながら俺は尋ねる。


「何を作るんだ?」

「お楽しみー」


 何だそれ。

 でもまあ、少しは楽しみだったりするのはどうしてだろうか。

 寂しかったから?

 ………まあ、どうでもいいか。


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