俺とお前は結末を知っている。~親愛なる未来の旦那と嫁へ~

窯谷

第1話

 俺、上技一斗うえぎいちとの独白。

 現在高校二年の俺は比較的平和と思える高校生活を送っていると言えるだろう。だが人には誰にも言えない過去が必ず一つはあるのではないだろうか。

小さい頃、スーパーで親とはぐれ「お母さん!」と抱き付いた女性が全く赤の他人だったり、中学生の頃「俺には特殊な力が宿っている」などと中二病を拗らせたり、ごく最近まで親とお風呂に入っていたり(どれも自分のことではない)。

俺自身にもそんな誰にも言えない過去が一つある。

 未来人と聞いてどう思う?

 まあ何言っているんだ?と馬鹿にしてくれて構わない。

 未来人。それは文字通り未来からやって来た人のことを指す。

 そして俺自身の過去。高校一年の時、今とは違う高校に丁度入学したころの話だ。俺の家に未来人がやって来たのだ。

 さて、俺のそんな誰にも言えない過去について、もう少し詳しく話そうと思う。

 ここからは独白ではない。(まあこんな変な語りをしている時点でこれが黒歴史なのだが)

 今から一年前、俺上技一斗が一人の未来人と出会ってから数か月の出来事。今に至るまでのプロローグである。




 小学校から俺の面倒を見てくれていた叔母が亡くなった。寿命だ。病室でそれを看取ったのは担当医の先生と俺だけ。父さんも母さんも仕事に忙しいから顔を出さなかった。

 どうやら父さんと母さんにとっては仕事の方が叔母の死よりも優先順位が高かったらしい。

まあ、実の息子である俺を叔母に押し付けるくらいなのだから、今回顔を出さなかったことを踏まえても俺の両親に対する評価の低さは相変わらずだ。

 そして俺の面倒を見る人がいなくなり、高校に入学すると同時に俺は一人暮らしをすることになった。

 それもしょうがない。俺の価値は仕事よりも低いから。それに月の仕送りさえしっかりと振り込まれていれば俺は満足だ。

 ただ唯一文句があるとすれば、もう少し早く一人暮らしのアパートを決めて欲しかったということだ。

 俺がこれから住むことになったこのアパートに入居したのは入学式の前日。つまり昨日だ。

だから俺はまともに荷解きもできないまま俺は入学式の日を迎えた。

 親に対するイラ立ちと、叔母が亡くなったショックは思いのほか態度に現れて、多分ホームルームでの自己紹介の第一印象は最悪だったはずだ。その証拠にクラスの親睦会に俺は呼ばれていない。

悪かったな、印象が悪くて。

 そんなわけで俺は真っ先にアパートに帰宅した。

 まあ、高校初日からボッチを謳歌することになるとは思わなかったけど。

 そんなことを考えながら制服のポケットから鍵を取り出してカギ穴に差し込んだ。

 ガチャリという音と共に部屋の扉が閉まった。


「…………」


 鍵、掛け忘れていたか。

 俺はもう一度鍵穴に鍵を差し込んで、今度こそ扉が開く。


「あ、おかえ…………」


 バタン!!

 思い切り扉を閉めた。

 一瞬見えたのは見たこともない女の子。

 決して広くない廊下で何やら作業をしていた。

 部屋間違えた………わけないよな?

 だって鍵刺さったし。

 部屋の番号も合っているし。

 すると扉が開いて、中から姿を見せたのはやはり女の子だった。

 丁度俺と同い年くらいのショートボブの女の子。ぶっちゃけ可愛い。


「入ってこないの?」

「入りたいけど、それよりもどちら様?」


 俺は警戒心などから少し強めの口調で言った。


「え?どちら様ってこの部屋の住人だけど」


 しかし返ってきたのは優しい声音の意味の分からない言葉だった。


「俺も住人なんだが?」

「知ってるよ?」

「もしかしてここはシェアハウスだったのか?」

「違うよ?」

「じゃあ何で俺の知らない住人が俺の部屋にいるんだよ」

「それはね、同居するからだよ」

「たった今シェアハウスを否定したよな!?」

「まあまあ落ち着いて」

「こんな状況で落ち着けるか。というか落ち着いてたまるか」

「あはは。相変わらずだね」


 相変わらず?

 女の子はあたかも俺と以前からの知り合いのような言葉を口にした。俺としてもそれが気になって尋ねる。


「いや、俺はお前のことなんて知らないぞ?」

「あ、そうだったね。まあ、立ち話もあれだし入ろうか」


 彼女に手を引かれ、訳も分からず俺は部屋へと入った。

 妙に距離感が近い。それにいつの間に主導権を握られていた。

 そして広がっていたのは机や箪笥、食器までしっかりと配置、収納され、段ボールも丁寧に折りたたまれている部屋だった。


「荷解きがされてる?」


 俺は部屋を見渡してから女の子を見た。


「これ、やってくれたのか?」

「うん。これから同居する仲だしね」

「ありがとう………ってそうじゃなくて!全部荷解きしたのか!?」


 部屋の隅にある折りたたまれた段ボール。室内にはそれ以外に段ボールは他にない。


「そうだよ?…………あ」

「…………」


俺は慌てて目を逸らす。


「エッチな本はベッドの下に隠しておいたから」

「それを隠したとは言わないんだよ!…………じゃなくてっ!」


 クソ………何でこうなるんだよ。

 いやまあ、思春期男子の守るべきものは自分の貞操と性癖だ。


「はあ………」


 俺はとりあえずベッドに腰掛けた。

 女の子は床にちょこんと座っている。

 俺は女の子を見て、


「それで、お前は誰だ?」


 ようやく本題に入る。

 目の前のこの子は誰なのか。

 入学式があったこの日、俺の部屋に私服姿でいる。同い年ぐらいのはずなのに、だ。

 怪しさしか感じない。


「私はね、お嫁さんだよ」

「…………は?」

「だからお嫁さん」

「誰の?」

「一斗くんの」

「何で名前知ってるんだよ」

「お嫁さんだから」

「俺は結婚してない」

「今はね」

「は?」

「実はね、私未来から来たの」


 俺の空いた口がふさがらなかった。

 そして俺の嫁と名乗る謎の女の子は俺の方を向いて言う。


「私の名前は上技楓うえぎかえで上技一斗うえぎいちとくん、君の妻です」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る