21gの代わりに〜それでも僕らは変われない〜

えあのの

第1話 銀髪の少女。


もうワタシのために誰も死なせはしない。

 だから、ここで終わらせるの。古の呪いを......


ーー新歴218年3月10日


 今から218年前、世界は大きく変わった。


 その日、世界で一番深いとされていたマリアナ海溝で、現代の科学技術の進歩の集大成である大規模調査が行われることが決定した。人類はその深い底を探査することを求め続けたが、とある褶曲断層から失われた古代文明の遺跡が発見された。研究の末、遺跡の仕掛けを作動することに成功すると、世界各地に同様の遺跡が出現した。


 暫く調査を続けたところそれらの遺跡は、現代よりも遥かに発展した技術を兼ね備えた都市の遺物であることが判明し、その技術により現代科学は完全に解明され、ほぼ全ての人間が仕事を失った。


 そして、200年余りが経った現在では、医学の発展による人口爆発を経て、強制的に100歳で棺に入り、人生の幕を閉じることになった。


 最初こそ反発はあったが、人間の最後の職業とも言われた芸術もAI達が作り上げるようになった今、生きがいをなくした人間たちは活力を失っており、そのことに気がつくとだんだんと反発は沈静化していった。



 薄気味悪くどよめく雲の下で、一様に黒い服を着た人たちが列をなす。俺もその列の一部となり真っ白い建物の中へと入ってゆく。


 それは、突然のことだった。自分の幼なじみであった結衣は、心不全で亡くなった。いや、正確には現代の人間が病気で亡くなることなどほとんどない。だから今回の原因不明な死は心不全として片付けられた。


 病院側としても面倒なことにしたくはなかったのだろう。もっともAIにより運営されているからそんな感情があるかはわからないが。


 しかし、俺は諦め切れなかった。明日で17歳の誕生日を迎えるはずだった結衣はあんなに元気そうに、そして楽しみにしていたのに......


 俺は結衣の本当の死因を知るために、結衣が発見されたという遺跡へと足を運んだ。


 調べ尽くされた遺跡は閑散としていて、声を出せば反響する。さっきまで降っていた雨が滴り、ただぽつり、ぽつりと水の落ちる音だけが響き渡っていた。


 ここに来てどうなるというわけではないのはわかっていた。ただやるせない気持ちを整理するために、現実を受け入れるためにここに来た。気がつくと俺は叫んでいた。


「どうして、どうして結衣が死ななきゃならなかったんだ! こんな立派な古代文明でさえ救えなかったのかよ! なんとかいえよ......」


 こんなこと言ったってどうにもならないことはわかっている。それでも叫ばずにはいられなかったのだ。


「ここにずっといても何も変わらない。いや、変われない。......帰るか。」


 そう呟いた時だった。ふいに前が見えなくなった。遺跡の中に突然とても強く青い光が満ち溢れ、俺の目は眩んでしまった。


 しばらくして、目が見えるようになってくると目の前で誰かが倒れている。


 銀髪の少女......その雰囲気は神々しさすらあった。もっとも神などいないのだが。


 彼女は突然目を開く......そしてこう呟いた。


「あと720時間」


 機械のような無機質な声が遺跡に響き渡ったと思ったら、次には同じ口から普通の人間の女の子の声が聞こえてきた。


「ここは、どこ?わたしは......?」





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